強引な無気力男子と女王子
 「あ、僕はReoという者です。怪しい奴じゃないので安心してください」
「は、はあ‥‥‥」
思わず差し出された名刺を受け取る。
 そこにはたしかにReoという文字が書いてあった。
 ん?Reo?
 「えーーー!」
そう叫んだのは日葵だ。
 「ReoってあのReo!?真紘、今スカウトされたの!?」
私以上に興奮してる。
 ちょっとうるさい。
 日葵を落ち着かせるために、日葵の背中をポンポンする。
 効果があったのかはわからないけど。
 そうしてから、改めてReoと名乗る人物の顔を見る。
 この人の顔も整っている。
 どうやら、この前日葵が教えてくれたファンの中での噂と言うか説は本当だったようだ。
 「お兄さん、僕に撮らせて欲しいんだ」
これはもしかしなくても‥‥‥。
 「あの、今もしかしてスカウトされてます?」
「うん」
 そんなやりとりをしている間にも、野次馬が群がってくる。
 「ちょっと場所を変えようか」
「え?」
私の疑問符に返事が返ってくることは無く、急に強い力でグンッと腕を引っ張られる。
 どこにつれて行かれるんだ‥‥‥。
 「ちょっと真紘〜!?」
「ごめん!この埋め合わせはまた今度!」
 引っ張られて行く途中に日葵に向かって叫ぶ。
 「じゃあ、次は真紘の奢りで映画見に行きたいな〜!」
「うげ」
 奢りはちょっと酷くない?
 不可抗力だし。
 私のせいじゃないし。
 日葵に反論しようとしたけど、日葵の姿はもう見えなかった。
 
 「アハハ!ごめんね?僕のせいで彼女さんに奢ることになっちゃって」
「ほんとですよ‥‥‥」
これは映画のチケット代払うだけじゃなくてポップコーン代まで払うことになりそうだ‥‥‥。
 ああ、懐が寒くなる‥‥‥。
 彼女という文字はスルーした。
 「で、本題に入るけど、君にモデルになってほしいんだ」
 「いや、でも‥‥‥」
 モデルって何か大変そうだし、そもそも興味ないし。
 「もちろん、お給料は払うよ?ついでに映画館代も」
この言葉にはぐらっとくる。
 逆に、モデルにならないと映画館代はもらえないってことだ。
 私の反応を見てReoさんは満足そうに笑う。
 「どうしようかな〜?okしてもらえないんだったら仕方ないなぁ〜」
そう言ってReoさんは笑っている。
 ‥‥‥この笑顔が黒く見えるのは私だけだろうか。
この人、絶対腹黒だ‥‥‥!
 ジトーっとReoさんを睨む。
 Reoさんはそんな私の視線に気づいているのかいないのか、にこにこと笑ったままだ。
 「さあどうする?」
この人は私がどんな返事をするのかきっと気づいている。
 「‥‥‥前向きに検討します」
結局私は、映画館代に釣られてそう返事した。
 私のバカッ!
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