雨あがりの匂い【中学生日記①】
「あぁ……雨上がりの匂いだ」

 何かすごいものでも発見したかのように、奈緒(なお)は思わず声をあげた。

 生暖かく、むせかえる空気。すっかり葉桜となった並木道。
 その湿った匂いは、部活帰りの汗ばんだ制服の匂いにも似ている。
 奈緒はなぜか、この匂いが好きだった。

「なに訳の分からないこと言ってんの、オナラのくせに!」

 クラスメイトが奈緒をからかう。
 奈緒のフルネームは佐倉奈緒(さくらなお)である。明るくて良い名前だ。

 ただ、逆から読むと、

 おなら くさ……

 この名前のせいで、幼稚園のころからずっと、奈緒のアダ名はオナラだった。もちろんそれは、嫌で嫌で仕方ない。

「乙女ゴコロとしてさぁ、このアダ名ちょっと有り得なくない?ったく…」

 ずっと、そう思っていた。
 だが、中学生となった今、どんなにオナラ~ オナラ~とからかわれても、すでに屁のカッパに成長していた。
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