月に魔法をかけられて
俺の秘書だろ…… –壮真side-
「副社長、修正した資料をお持ちしました。カラーで5部印刷しております」

秘書がそう言ってDスタジオまで資料を持ってきたのは、俺が朝彼女にメールを送ってから、2時間も経っていなかった。

14時までに持ってきてほしいとお願いしていたのだが、まだ11時前だ。相変わらず仕事が早い。

「ありがとう。助かったよ」

俺は秘書から資料を受け取り、目を通すと、スタジオのサイドテーブルに置いてあったビジネスバッグにそれを入れた。

秘書は俺の隣にいた塩野部長と挨拶を交わしたあと「では失礼します」と言って帰って行った。

今日は年明けから放映されるコスメのCM撮影のため、夕方のアポイントまでの間、このスタジオにこもりっきりだ。

だが、昨年から起用しているモデルの武田絵奈がまだスタジオ入りしてなく、撮影は始まる気配もなかった。

「武田絵奈ですが、沖縄から戻ってくる飛行機が遅れているらしく、まだ羽田にも到着していないようです。撮影が始まるまでまだ時間がかかりそうですね」

塩野部長が申し訳なさそうに俺にそう告げる。

「仕方ないこととはいえ、こちらにもスケジュールがあるんですから、武田絵奈の事務所にももう少し余裕を持ったスケジュールを組んでもらいたいものですね」

俺が不機嫌そうな顔でそう言い放つと、塩野部長は「そうですね……」と同調しながら苦笑いを浮かべていた。

こういうことは珍しいことではなく、結構起こりうることなんだろう。

それから塩野部長とこれからの戦略について、立ったまま色々と話をしていると、

「はーい。では絵奈さんが来られるまで先にリハーサルを始めさせていただきます。絵奈さんの代わりは、うちの社員が担当させていただきます。スタッフのみなさん、すみませんがよろしくお願い致します」

瞳子の声がスタジオに響いた。
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