月に魔法をかけられて
幸せな気持ち
瞳子さんの家から副社長の家へと向かう間、私は自分のことでいっぱいいっぱいで、副社長に話しかけることすら忘れ、無言のままいろんな思いを張り巡らしていた。

副社長の懇願するような声に、つい副社長の家で一緒に生活すると答えてしまったものの、いざこれから2人で本当に生活していくのかと思うと緊張してどうしていいのかわからなくなってしまう。


ごはんって、どうするのかな……?
毎日一緒に食べるってことになるのかな?

作ってもいい?
いや、そんな奥さんみたいなことしちゃうなんて……。

わっ、奥さんって……。
もう! 私、何を考えちゃってるの!

違う、違うってば……。

そう、お礼!
お礼としてごはん作らせてもらえばいいよね……?


あっ、もうすぐ仕事も始まるじゃん……。
電車ってどうやって通ったらいいのかな?

そうだ。
副社長に最寄駅を聞いておかないとね……。


一緒に生活するってことは、寝顔も見られちゃうってことだよね?

えっ? 寝顔?

まさか……。
副社長と一緒に寝るってことないよね?

ど、どうしよう………。

あっ、そうだ!
私はソファーで寝るって言えばいいじゃん……。


で、でも……。
あの時……。

『美月のことは大切にきちんと抱きたい』って言ってたし……。

ってことは……、
副社長とキス以上のことを………。

わぁっ……。
私、ほんとに何考えてるの……。


そんな妄想ばかりが頭の中を駆け巡り、ドクンドクンと胸の音を鳴らしながら、思わず両手で顔を覆ってしまう。


ううん。そ、そんなことはないよね……。
すぐには手を出さないって言ってたし……。


そう思い直しながら、昼間の舌が絡みあったキスを思い出し、身体の奥がきゅうっと疼いた。
< 265 / 347 >

この作品をシェア

pagetop