月に魔法をかけられて
「その様子だと美月先輩まだ知らないんですね……。副社長の解任要求が出てるって話……」

「えっ? あゆみちゃん、どっ、どういうこと? 解任要求ってなに……?」

全く予想もしてなかったあゆみちゃんの言葉に、驚きすぎて声が大きくなる。

「まだ噂の段階ですけど、副社長の解任要求が出てるみたいです。まあ、そう言ってるのは恐らく増田専務と小野常務でしょうけどね……。あの2人、副社長のことあまり快く思っていないでしょ。社長の息子っていうだけで、海外から戻ってきていきなり副社長になったって思ってて……」

「そんなこと………。副社長はすごく努力もされてるし、仕事も真剣にされてるよ。あの人は社長の息子っていうだけで副社長になったんじゃないから。ちゃんと実力がある人だから……」

あゆみちゃんがそう言っているわけじゃないのに、つい強い口調で言ってしまう。

そんな私にあゆみちゃんはニコッと微笑んだ。

「美月先輩は前からそう言ってましたもんね。副社長がイケメンだとか言うより、仕事が忙しいから身体が心配とか、もっと休んでほしいとか……。今回のこともね、そんな副社長が脅威なんだと思いますよ。

実は今、あの新色コスメの売り上げが少し落ちてきてるんです。まあ、落ちてきているというより、売れすぎていたのが落ち着いてきたって感じなんですけどね。それで今回、武田絵奈が芸能活動を休止して海外留学するっていう話が出たときに、CMの契約を副社長が勝手に切ったらしいんです。そのことを増田専務と小野常務が、副社長が相談もせずに勝手にそんなことをしたから売り上げが落ちた……と無理やり副社長の責任して解任にしようとしているらしいです。経営者としてふさわしくないと……」

「そんな……。だってそれは………」

「そうですよね。副社長の責任じゃないですよ。実際に売れてたのは美月先輩がつけてたパールピンクだし、CMだって、美月先輩のWEB CMの方が評判良かったですもん。でも、相談もせずに副社長の独断で契約を解除したっていうところにかなり突っ込んできてるみたいです。なんとかして副社長の座から引きずり下ろしたいんでしょうね」


あゆみちゃんが運ばれてきた熱々のバターチキンカレーにちぎったナンをつけて、パクッと口の中に入れた。

「あー、やっぱりここのカレーとナン、美味しすぎるー。早く、美月先輩も食べてみてください」

あゆみちゃんにそう促されるものの、そんな話を聞いた私は一気に食欲がなくなってしまった。
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