月に魔法をかけられて
プライドかヘタレか –壮真side-
「おはようございます………」

朝出社した俺に、秘書はいつもと同じように挨拶をしてきた。

いや、いつもとは少し違ったのかもしれない。

どこか俺の様子を窺っているような……、そんな気がした。

俺は打ち合わせに出向くためのタクシーを呼んでもらうよう秘書に指示を出したとき、彼女の顔をチラリと確認した。

何か言いたそうな、聞きたそうな、そんな顔をしていたが、わざわざ俺から金曜日のことを蒸し返すこともない。

まあ、そのうち秘書から何か言ってくるだろうと俺は思っていた。

だが、タクシーが到着したことを知らせにきたときも、頼んでおいた手土産を渡しにきたときも、秘書は何も言わなかった。

どうして何も言ってこないんだ……?

何も言ってこないとなると、余計に気になる。

かと言って、俺から聞くのもプライドが許さない。

いや、待てよ。もしかして……。

聡は秘書が俺をホテルへ連れて行ったと言っていたけれど。

それは違うのかもしれない……。

俺が聡からそう話を聞いていたから、秘書は何か言いたそうな、聞きたそうな顔をしているように見えただけで、本当は普段と変わりないのかもしれない。

そうも思えてきた。


そしたらいったい誰が俺をホテルへ連れて行ったんだ……?
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