怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
第二章
 厚手の遮光カーテンを締め切った部屋で電気を消すと、ロウソクの明かりだけが頼りなくリビングを灯した。アンティーク調のキャンドルスタンドは、ロウソクが三本立てられるようになっているが、一台しかないため十分な灯りとは言えない。だが、ペンション中の明かりは消えうせ、今や頼りはそれだけだ。

 キャンドルスタンドはローテーブルの中心に置かれた。そこはテーブルの上に敷かれた布に描かれた魔法円の中心でもあった。四隅には小皿に注がれた香油が置かれている。

「では、皆さん互いに手を握り合ってください。交霊会中は絶対に何があっても手を離さないようにお願いしますね」

 緊張感の中、上河内の指示に従って要は両隣にいたあかねと由希と手を繋ぐ。あかねは秋葉と手を繋ぎ、秋葉は上河内と、上河内はジャブダルと手を繋ぎ、ジャブダルは笹崎と、笹崎は田中と繋ぎ、田中は大島と、大島は猪口と、猪口は由希と手を繋いで円形状になってテーブルを取り囲んだ。

「ジャブダル先生、お願い致します」

 上河内が促すと、ジャブダル内場は厳かに頷く。そして、一点を見つめた。視線の先のロウソクが僅かに揺れる。
 ジャブダルは大きく深呼吸をした。微かに窓の隙間から拭いたときの風のような音が聞こえた。歯の隙間から空気が抜けたのだろうか、それとも唇が震えたか。要はそんな風に考えて、何気なく全体を見回す。室内にも人にも変わった様子は見られない。

「この屋敷に住まう霊よ。我が問い掛けに答えよ。この場に現れて、真意を話したまえ」

 ジャブダルはまた大きく息をした。その隣で、同じように上河内の胸が浮き、沈む。どちらも同時に呼吸を深くした。先程と同じような、風を切る音がする。

「さあ、おいで」
「現れたまえ」

 ジャブダルが幼子を誘うように優しく呟き、反対に上河内ははっきりとした強い口調で言った。
 その瞬間、風が吹いた。頬をなでるような微かな風だったが、冷たい雪の朝のような空気に思わず誰もが身震いをする。

(寒いんだけど)

 要は恨めしそうに窓の方を振り返ったが、窓は締め切られている。鍵もかかり、閉ざしたカーテンは一ミリも揺らいでいない。

(風じゃない……ってことは)

 逸る気持ちを抑え、要は視線をきょろきょろと動かす。室温はまた一段と下がった気がした。自分から吐き出される息が薄闇の中で白くなった気がする。

 その途端、衝撃音がした。何かが割れる音に、複数の悲鳴が上がる。誰が上げたのか正確なところは分からなかったが、自分の隣にいたあかねが上げたのだけは判った。

「ちょっと、大丈夫なの?」

 あかねが不安げに呟いた。握られた手から震えが伝わってくる。

「あなたは、ここに住まう霊ですか?」

 薄闇の中で上河内の声がした。

「田中さんや我々に、何を伝えたいのです?」

 上河内が問いかけた瞬間、激しい衝突音が鳴った。何かが天井や壁にぶつかる音に、思わず何人かが手を離す。

「離したら……!」

 由希が焦って声を上げたときだった。吹くはずのない風が吹いた。ロウソクの炎が一瞬にして消え失せる。
 明かりを失って、暗闇が訪れた。
ブツンと、電源が落ちるような音を微かに要の耳が捉える。要は素早く目を配る。隅にあったテレビの待機ランプが消えている。

(停電もしてるのね……。大丈夫、落ち着けあたし)

 要は自分に言い聞かせた。目が慣れれば、暗闇でもある程度は把握出来る。カーテンから外の光も漏れるのが分かるはずだ。だが、あかねはパニック寸前で短い悲鳴を上げていた。

「落ち着け!」

 秋葉の宥める声や、笹崎や田中、大島の動揺する声も聞こえてくる。パシャンと水が跳ねる音が微かに聞こえた。

「何?」

 大島が怪訝に満ちた声音で呟いた。おそらく聞き取れたのは要と、大島の両隣の田中と猪口くらいだろう。

「うっ……」

 突然、隣で呻き声がした。

「どうした。由希?」
「う、ううん。なんでもない……少し、頭が……」

 呟いた由希の輪郭が突然浮かび上がった。

(光り?)

 要は炎のような赤い光を見た。それは小さな光だった。小さく小さく揺らめいたと思ったら、次の瞬間大きな炎になった。

「キャアアア!」

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