救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~

ただの恋する女

キラキラと輝く都心の夜景が美しい。

緑色に輝く庭園の木々も絶妙だ。

色とりどりのランタン、風に揺れる風鈴の音色。

今週は日勤ばかりだったとはいえ、いつもとは違う緊張を強いられた。

一週間の疲れを癒してくれる風景に、あやめは心の健康を取り戻していた。

「ご立派な家系の男性を家来のようにお使いになるなんて、貴女はどちらのご令嬢でいらっしゃるの?」

そんな至福のプライベートな時間を邪魔しようとする輩はどこにでも出没する。

なぜ無神経な彼らはいつでも神出鬼没なのだろう。

「ご令嬢でも、高貴な出自でもございませんが」

「まあ。そうなの?だとしたらオフィスビルの会員制VIPラウンジにお勤めの方なのかしら。いずれにしろ、あの堅物王子にどうやって取り入ったのか興味があるわ。お聞かせ願える?」

明らかに、自分は狭いカースト制度の上層部で生きていると信じて疑わない、愚かな女性の典型だ。

人を家柄や職業、見かけだけで判断する。

ご令嬢でないのなら体を使って堅物王子を落としたのだろう、とでも言いたいだろうか?

あやめは言い返さずに成り行きを見守ることでこの女性の真意を知りたいと思い、彼女の瞳をじっと見つめた。

「あら?図星かしら?そうよねえ。どんなご令嬢や美女からのお誘いにも乗らなかった聖川専務だもの。何かしらメリットがなければお付き合いなんてしないわよね。何せあの有名なお母様の息子だもの」

聞きもしないのに光治のプライベートにまで言及してくる品の無さ。

ここまで知ったかぶりをするのならこの女性は光治の親戚か何かなのか?

あやめが顔をしかめているのを優勢と捉えたのか、女性は更なる情報を浴びせてきた。

周囲に他に誰もいないのが幸いだ。

「財産目当てに聖川家に潜り込んだ育ちの悪い駆け出しのグラビアアイドル。仕事で知り合ったご当主を誘惑してまんまと妻の座におさまり跡取りを産んだ。と思ったら今度は財産を持ち逃げして逃亡。フフ、ここらでは有名な話なのだけど、その顔はご存知なかったのかしらね?あの方のお母様は聖川の汚点なの。そんな女性から生まれた偏屈なだけの御曹司なんて先が知れている。貴女も媚へつらう相手を間違っているとは思わなくて?」

蔑んだ目をして得意気に笑う女性の瞳が怪しげに光った。

その態度と言動に、あやめの中の本日の怒りスイッチは前触れもなく発動されたのであった。
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