溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
症例1
症例1
 ――ドキドキする。

 今からわたしの人生がどうなるかが決まる。大袈裟でもなんでもない。

 胸に抱えた大判の封筒の中には履歴書。この面接に今までの人生のすべてを賭けたといっても過言ではない。

 クリニックの待合室でピシッと背筋を伸ばす。

 世の中にたくさん病院がある中、ここ中村(なかむら)クリニックは間もなく診察時間が終わろうとしているにもかかわらず、待合室にはいまだにたくさんの人であふれかえっていた。

 わたしが受付で面接にきたことを伝えると、カウンターにいたはきはきとした明るい印象の女性は笑顔で座って待つようにと言った。ネームバッジで名前を確認すると「真鍋(まなべ)」とあった。もし一緒に働くことになったら頼りになりそうだ。

 患者さんの邪魔にならないように、端っこにちょこんと座る。面接のことを考えるとドキドキして緊張から手のひらが少し汗ばんだ。

「ふぅ」

 小さく深呼吸をしてなんとか気持ちを落ち着けようとする。

 すると隣のおばさまから声をかけられた。

「あなたもどこか具合が悪いの?」

 心配そうに顔を覗き込まれて、慌てて顔の前で手を振って否定する。

「いえ、まったくもって健康です。ご心配ありがとうございます。実は、今日わたしここのクリニックの面接を受けることになっていて」

「あら、そうなの。ああ、|那夕子(なゆこ)ちゃんがもうすぐ産休に入るから」

 おばさまの視線の先には、おなかの大きくなった女性がいた。どうやらあの人の代わりを募集しているようだ。

「那夕子ちゃんとってもいい子だったのよ。代わりとなると大変だと思うけど、頑張りなさいね」

「はいっ! 採用されたときはよろしくお願いします」

 勢いよく頭を下げると、おばさまはにっこり笑った。

「あら、元気でいいわね。わたし気に入っちゃった。先生に伝えておくわね」

「本当ですかっ? ありがとうございます」
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