復讐目的で近づいた私をいくらで飼いますか?
「……お前、明日休みだよな? お願いがあるんだけど。」
「………私にメリットがあるなら叶えてやらなくもない」
「俺に上から目線でくる奴、お前くらいだよ」
クスクスと笑いながら新はパソコンを取り出した。仕事の続きでもするんだろう。
もうこんなにも夜遅い。止めはしないけれど、新の多忙さは異常だった。
PCメガネを手に取る姿は格好いい。サマになる。そしてその黒縁メガネは、より一層彼の顔立ちの良さを引き立てた。
「で、お願いって?」
「鏡秋(きょうしゅう)のモナカ買ってきてほしい」
テナント内に位置する高級和菓子屋の鏡秋…。っていうか新って甘いもの好きなんだ。
「別にいいよ。明日、ちょうど庭園行こうと思ってたし。」
「……颯汰のところ?」
「うん」
新と私の幼馴染のそうちゃんは暫く会っていない。
復讐計画を否定されてから何となく顔を合わせるのが気まずくて長らく日本庭園へ足を運んでいなかった。
(元気かな…)
元婚約者かつ一番の親友。
つまらない意地を張って、ずっと会わないのは嫌だ。
「……そうちゃんと仲直りしなきゃ」
「喧嘩?」
「あっ…えっと…んーそんなところ」
煮え切らない返事。新は不思議そうな表情をして私のことを見ている。
細かい喧嘩内容というか気まずい理由は話せない。元凶は新だから、なんて伝えるようなものだ。
何か次に言葉を続けようとして、頭の中で考えあぐねていた。だがしかし、そんな私の心を掻き乱す言葉を新が言い放ったことで、思考回路は遮断される。
「元婚約者なんだし、別に仲良くする理由もないだろ。」
今なんて言った?
「切れそうな縁を修復する必要ない。そこに使う労力が無駄だろ。」
心の奥底で張り詰めていた糸が切れたような気がした。
「勝手に私の婚約者になって…その言い草は何…?」
「…………」
「ズカズカと私の身の回りのことに首突っ込まないで!」
ヒステリックだと言われれば、否定はできない冷たく荒げた声。
止まらない。
溢れ出る言葉も。
……涙も。
「私のこと好きでもないくせに!想いやりも何もないくせに!……知ったように、偉そうにしないで!」
「………そうだな。悪かった。」
謝らせてスッキリするなんてことはなくて黙ったまま私は寝室へと、逃げるようにして部屋を出て行った。