復讐目的で近づいた私をいくらで飼いますか?
幕開け


時刻は夜の23時。
メイク直しはバッチリだし、男性受けするという香水を付けて背筋を伸ばす。

余裕たっぷりな妖艶な笑みを浮かべていると、手を引かれて新の後をついて行く。

意外と強引な手にドギマギしながらも、復讐計画の実行開始を目指して大人な女性を演じ抜いていると…。


「…っ……ここに住んでいるんですか…?」


辿り着いたのは、レジデンス最上階。
何気ない様子で扉を開けて入る姿を見ると、間違いない。とんでもない資産家が住んでいると噂の最上階は…

まさかの幼馴染の家だった。


(………通りで躊躇いもなくドンペリを…。)


と思ったが、この複合タウンに住む人々にとってはドンペリなど当たり前なのかもしれない。


「……まさかのアフターで家…」


ぽろっと本心が口をついて出た。それに対して新は…。


「のこのこ付いて来たのはお前だろ?」


はい、出ました。ブラック新くん。
そっちがその気なら私だって…。


「……普通、アフターって、健全なお出掛けをすることなんですけど…」

「あっそ」


いつもニコニコ満面の笑みを浮かべるくせに、元はクールな腹黒男…。
それが『藤堂 新』だ。


「まだ俺とお前は客とホステスか?」

「っ…ラウンジレディって言って欲しい。」

「一緒だろ。」


嫌な感じ。

部屋の中に入ればモノトーンで統一した豪華なインテリアが目に映った。
高級そうなブランド物の腕時計を外してジャケットを脱ぐ姿はとても色っぽい。ウォーターサーバーからコップに水を注ぎ、彼は呑気にゴクリと喉を潤して私の方を向く。


「……藤堂さん。あの…私は何をすれば…」

「………他人行儀すぎ。」


コップをテーブルの上に置き、私の方へと近寄ってくる。

久々の再会なのに変わらない塩対応。声のトーンは冷たくて、少しだけ怒っているようにも聞こえた。


「俺の前で他の男に口説かれて…嬉しかったか?」

「っ…嬉しくなんか…!」

「もっとしっかり自覚しろよ」





「お前は俺の婚約者なんだから」





神様は本当に酷いことをする。


「……婚約者、ねぇ…。……私のこと好きじゃないくせに…」

「さぁ。どうだろうな」


いつも流されて悔しい思いをするんだ。
新を出し抜いて復讐を進めたいのに。


「……私は新のこと好きだよ…?」


男性がドキッとする女性の仕草No. 1の上目遣い攻撃。ほんの少しだけ胸元が見える服を選んだ私は、そこを強調させるように距離を詰めた。


(どうだ!)


と内心、意気揚々としていると…。


「………じゃあ相手して」

「うん」


……うん? 相手、とは?
突然の新の言葉に頷いた後になって疑問が脳裏に浮かんだ。
不思議に思いながらゆっくりと近づいてくる新の表情を凝視していると…

《トン》

私の横付近の壁に手をついて、視線を向けてくる。何となく察した私はもう一度柔らかな視線を新の顔に送った。


「……誘ってんの?」

「言ったでしょ? 新のこと好きだから…何されたって良いの」



息をするように嘘ばかり並べて。



ねぇ、あの頃よりも私…



《ちゅっ…》

「んっ……」



…こんなにも汚れたよ。



「口、開けて」

「うん…」


くちゅっという水音は静かな部屋に大きく響く。
いい歳した大人だから。
今更ファーストキスが、とか、好きな人相手じゃなきゃ、とか言うことは絶対ない。

ない、けど…。


「『何されたって良い』って言ってたけど…」


キスの合間。唇が触れるか触れないかの至近距離で新は言葉を紡ぐ。


「ウブなくせに背伸びして…本当にしょうもないやつ」

「っ……ウブじゃ…なぃ…」

「キスだけで顔真っ赤なのに?」


何も言い返せない。ぐうの音も出ない。
身体の内側から込み上げる熱に自分で気づくと、恥ずかしくなって強く目を瞑った。


「舌…ぎこちない。水商売で練習してんのかと思った」

「いちいち感想要ら、ない…から…」

「んっ……もっと舌出せ…」


強引で意地悪で、でもゾクゾクして気持ちが良い。歯列をなぞって、舌の側面をたっぷりと刺激されればトロけてしまう。頬の裏の粘膜を執拗に舐められると、腰が抜けそうになり膝がガクガクと震えた。
しかし、私を休ませる気なんてない新はしっかりと私の手首を掴み、背中を壁に押し付けてひたすらに口内を蹂躙する。


「……んっ…♡」

「………発情してんの…? 俺のこと好きじゃないくせに」

「好きだって言ってるでしょ……っ…ひゃぁ…!」


気を抜いた瞬間に、ゆったりと柔らかく服の上から胸を揉み上げられる。それから右耳に舌を挿れ、音を立てて舐(ねぶ)り始めた。


「んっ…やぁ…♡」

「甘い声…良いな。もっと…啼(な)いて聞かせろ…」


股の間に足を入れて私の身体を支える。脱力してしまう私を見て嘲笑いながら次の質問を投げかけてきた。
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