心を一旦落ち着かせて、物事を整理しよう。
そう考えた私がよく足を運ぶ場所がある。

テナントの屋上に位置する日本庭園。

鳥の囀りばかりが耳に聴こえる。いわゆる作業BGMにぴったりなサウンドに、心洗われる気分になる手入れの行き届いた庭園。
そして同じく屋上にある茶室では着物を着た優雅な女性や凛々しい男性が上品に時の流れを楽しんでいる。

それに比べて私はというと…。

大好きな苺ミルクを片手にボーッと空を眺めていた。


同棲? 新と?

確かに婚約者だけど、お互い好意はないのに。
変に近くにいたらボロが出そう。

………複雑だ…。


ぐるぐると思考を巡らせてながら空を仰ぎ続けること5分。私の首が疲れてきた頃…。


「また苺ミルク持って悩んでる」

「っ…そうちゃん…」


私のもう一人の幼馴染、『今泉 颯汰(いまいずみ そうた)』こと、そうちゃんが背後から私の顔を覗き見る。


「眉間にシワ寄ってるよ」

「……余計なお世話…」


重たくて頑丈そうな箱を地面に置いて、大きくそうちゃんは伸びをする。相変わらずの優しい声音と落ち着いた雰囲気に心が和んだ。


「そうちゃん日焼けしたね。」

「まあ、日中ずっと庭園の手入れしてるからな〜」

「巷(ちまた)で有名な腕利きの庭師さんは大変そうですね〜」

「そういう純連だって仕事頑張ってんじゃん。純連目当てで行く人が一番多いって聞いた」

「なにそれ、何処情報?」


なにも変わらずに話せる。
このベリーヒルズビレッジでママと同じくらい心を許せる人。温和な彼と一緒にいれば同じく自分も温和になれるような、そうちゃんは陽だまりみたいな人だ。


「うん、純連には笑顔が一番よく似合うよ」


クスクスと笑う私の顔に優しい眼差しを向け、頭を数回撫でるとフニャリと天使みたいに笑った。


「……ありがとう」


彼なりの励まし。元気付けてくれるそうちゃんがいるから必要以上に日本庭園に足が運んでしまうのも事実だ。


「……悩み事、僕で良ければ話聞くよ」

「助かる。………新のことで悩んでて…」

「………」


同じく、そうちゃんと新も幼馴染同士だ。だから新のことを知っているし、私が目論んでいる計画も知っている。全て起こった出来事を話して、これからどういう策を練ろうか一緒に考えよう、なんて思っていたら…。


「……復讐なんて辞めなよ。」


唐突にそうちゃんが言う。


「…………そんなこと、純連にはして欲しくない。……新と婚約破棄して…それで終わりにしようよ…」


私がどんな境遇に居たか、どんな気持ちで今まで生きてきたか…全て知ってるくせに。


「そうちゃんにだけはそんなこと言われたくないよ。」

「…………ごめん」


止めないで欲しい。
こんなにもグチャグチャになった私の顔に…。


笑顔なんて似合うはずがない。