【番外編】好きの海があふれそう
教室
窓際の席は眠くなる。



それがお昼ご飯を食べ終わったあとの5限の時間なら尚更だ。



中学に入学して1ヶ月。



あたし、暮名 玖麗(クラシナ クレイ)は、さっきから繰り返し落ちる瞼への抵抗を諦めて、机に突っ伏した。



もう無理…。



寝ることを決心した脳みそは、安心しきってとろとろに溶けてる。



でも、溶けた脳みそを無理矢理固め戻すように、背中になにかくすぐったい衝撃が走った。



「ひゃ!?」



授業中にも関わらず、小さく声を上げて飛び起きる。



幸い、周りも睡魔との戦場になっていて気づかれていない。



それに、先生の方もこの時間に公民の授業をする事を諦めているのか、ただ教科書を読んでいるだけなのでこっちは見えていないみたいだ。



あたしは、後ろの席にいる、いとこの暮名 悠麗(ユウラ)の方をそっと振り向き、軽く睨んだ。



悠麗は知らん顔してる。



でも、おかげで目は覚めた。



公民の授業に全然興味はないけど、頑張って授業を受けよう…。



そう決心してシャーペンを持つと、また背中にくすぐったさが訪れた。



あたしは、ノートの隅を破り、『なんなの?』と書いて後ろの悠麗に渡す。



すぐにその紙が戻ってくる。



あたしの文字の下には、この年齢の他の男の子よりもずっと綺麗な字。



『背中 なんて書いてるか当てて』



あたしはそっと振り返る。



悠麗は、「いい?」と小さい声で言った。



「…」



あたしは、何も言わずに前を向く。



悠麗の指が、あたしの背中に触れた。



ゆっくりとあたしの背中をなぞるその指に、あたしはドキドキしてる。



そう…。



あたしは、悠麗のことを、産まれてから12年間、恋し続けている。



誰にも言えない、あたしだけの秘密。



だって、悠麗があたしのことなんか好きになるはずないもん…。



それに、こんな叶いっこない気持ちを人に言って「無理だよ」って思われるのも嫌。



悠麗のお姉ちゃんで、あたしの親友の杏光には言ってもいいけど、あたしが悠麗を好きだなんて夢にも思ってない杏光に言うのもなんとなく気が引ける…。

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