溺愛音感
ハナ、イケメン社長(毒舌)に出会う

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たっぷり春の陽射しが降り注ぐ休日の午後。

地下鉄駅の構内から外へ出た途端、桜の香りに包まれた。


(わぁっ、満開!)


駅からアルバイト先への近道、公園を横切るルートは桜並木になっている。

二、三日前まではつぼみばかりだったが、いまや白に濃淡入り混じったピンクの花が咲き乱れていた。


(すっごく、きれい……)


初めて見る光景に目を奪われ、写真を撮ろうとスマホを取り出して、通知を知らせるLEDのランプに気づく。

メッセージの送り主は、母。

どうせいつもの安否確認だろうと思いながら開いたメッセージは、予想外のものだった。


『おみあいしなさい。三十五さい、いけめん、せれぶ』


(は? おみあい? おみあいって……何のことだっけ?)


言葉の意味がわからず、WEBで検索する。

おみあい(お見合い)とは「結婚を希望する男性と女性が、第三者の仲介によって対面する慣習」らしい。


(なるほど……って、どういうことっ!?)


結婚する気などサラサラないし、ましてや見ず知らずの人となんて、あり得ない。

しかも、相手は三十五歳。十も年上のオジサンだ。


『やだ。どうして?』


急いでメッセージを送り返したら、即座に返信が来た。



『いつまでもアルバイトで、いきていけるとおもってるの? いいかげんに、げんじつをみなさい』

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