溺愛音感
ハナ、俺様と演奏する

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ヘアサロンとエステをはしごしてのグルーミング。

高級ブランド店でのファッションショー。

アジアンなレストランでの遅めのランチ。

楽器店での楽譜漁り。

高級食材の揃うセレブ御用達のスーパーで買い物。

長い道のりを経て辿り着いた夕食は、晩ごはんじゃなく「ディナー」と呼ぶべきハイクオリティ。

ブロッコリー、ニンジン、マッシュポテト、デミグラスソースがたっぷりかかったハンバーグ。
そして、皮がぱりぱりのバゲット。

見るからに、美味しそうだ。


「餌だぞ、ハナ!」


犬扱いも気にならない。

見合いを破談にするのは、一旦棚上げにすることにした。

高級おせんべいに釣られたわけではない。
九十九曲を弾き終えるまではどうせ離れられないからだ。

それに、何だかんだ言って、最終的には破談になる確率は高いと思う。


(あまりにも格差がありすぎて、本気でわたしと結婚するつもりがあるなんて信じられないし。いまはその気があったとしても、そのうち気が変わるだろうし……)


一緒に暮らすことについては、わざわざ報告しないかぎり母にはバレない……はずだ。
マキくんも、松太郎さんに口出しされたくないようで、黙っておくことに同意した。

順調にデート(散歩)を重ねていると報告しておけば、二人とも何も言わないだろう……たぶん。


(とにかく……神様、マキくんにわたしを拾わせてくれて、ありがとうございますっ!)


これまで信じたことのなかった神様に心の底から感謝して、ハンバーグをひと口食べた瞬間、あまりの美味しさに悶絶した。


「んーっ!」

「どうした? ハナ」


優雅に赤ワインを飲むマキくんが、怪訝な顔をする。


「すっっごく美味しい! 肉汁がじゅわーっと染み出て、デミグラスソースも絶品。添えられている野菜もカラフルで、ニンジンが星とかお花とかの形してるし……とにかく全部が美味しすぎるっ!」

「そうか。気に入ったなら、よかった。パンを焼く時間がなかったのは、残念だが」

「え? マキくん……パンも作れるの?」

「ああ。買いに行くのが面倒な時は、自分で焼く」

「自分で作る方が面倒じゃあ……?」

「接待やパーティーが続いた時は、他人と会うのが億劫になる」


相手の様子を窺いながらの会話はとても疲れる。

社長は、いわば会社の顔。
不用意な発言や行動が原因で株価や業績が悪化したら、従業員を路頭に迷わせてしまうかもしれない。お酒の席でも気は抜けないのだろう。


「今日は……大丈夫だったの? 家に居たかったんじゃないの?」


プランを立てたのはわたしではないけれど、丸一日出かけていた。


(わたしがグルーミングされている間、所用を済ませてくると言ってどこかへ行っていたけれど、本当は家でゆっくりまったりしたかったのでは……?)


しかし、真顔で放たれたひと言で、そんな心配は無用と悟る。


「散歩は飼い主の義務だ」

「…………」


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