「まさか総司さんが寝坊などするとは思いませんでしたが……。待ちに待った新婚初夜でしたからね。仕事の鬼と呼ばれるあなたも、所詮は人の子ということでしょう」

自宅まで車で迎えにきた有能――だがひと言多い秘書・真鍋は、にこやかにそんなセリフを吐いた。

もとは総司の父親の個人秘書として働いていた彼。総司が重要な役職を任されるにあたって、息子のお目付け役を兼ねて遣わされた。今では頼もしい右腕だ。

人のよさそうな顔に、銀フレームの眼鏡。穏やかな口調で呆れるような毒を吐く。

見た目は総司とたいして変わらない歳に見えるが、実のところ十歳以上、上である。

未婚の彼にわかったようなことを言われるのは心外だが、寝坊した手前文句も言えない。

今頃第二秘書はスケジュール調整に追われているらしいし、真鍋も訪問を予定していた企業にキャンセルの連絡を済ませたばかりだ。

「新婚だろうがなんだろうが、仕事に支障をきたさない自信があったんだがな」

そもそもそのための結婚だ。仕事を円滑に回すための偽装結婚。もちろん、秘書たちには隠しているが。