契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~

孝也の苛立ち

『セントラルホーム』港店を改装したと同時に設置された最新のコーヒーマシーンで、晴香はいい香りのするコーヒーを入れている。店舗の方の応接スペースでもう一時間以上も打ち合わせを続けている孝也と田所のためである。
 晴香が孝也から優しい"おしおき"を受けたあの夜からさらに数週間が経った。
 この日、近々あるこのエリアでの取引の打ち合わせのために、孝也は午前中から港店を訪れていた。
 晴香はコポコポと音を立ててカップに溜まってゆくコーヒーを見つめながら、さっき見た孝也の姿を複雑な気持ちで思い出していた。
 見慣れたはずの彼の姿。
 それが今までと明らかに違って晴香の目に映った。
 長い足を少し窮屈そうに組んで、店舗の大きな窓から差し込む真夏の日差しを背にした孝也は、確かに会社中の女性を虜にしているのが納得の男ぶりだ。
 言葉は多くないけれど、的確に話を進めていく様は、営業マンの信頼を集めるにたる副社長で、将来会社を背負う人物なのだということは誰の目にも明らかだ。
 でもそれ自体は今までとそれほどは変わらないはずで、それなのに違って見えるという事実が、晴香を浮かない気持ちにさせている。
 やはり晴香自身の心境が変わってしまったということなのだろう。
 一方で晴香にはもう一つ気がかりなことがあった。彼の体調だ。
 結婚して二週間ほどは早く帰ってくることが多かった孝也は、その後深夜帰宅が続いている。
 それなのに、朝は晴香と変わらない時間に出てゆく。行き先によっては、もっと早い日もあるくらいだった。
< 105 / 206 >

この作品をシェア

pagetop