契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
不自然な新婚生活

初めての夜

「北見さん、山城様の資金計画表はできているかな」

 水木の休みが明けた金曜日の夕方、『セントラルホーム』港店の自分の席で、田所に声をかけられて晴香はパソコンから顔を上げた。

「はい、できています」

 すでに午前中に仕上げてあったその資料を手渡すと、田所が満足そうに微笑む。

「ありがとう。いつも早くて助かるよ」

 そして店舗の女性社員全員に向かって声をかけた。

「今日はもう来店の予約もないから、定時であがってくれて構わないからね」

 その言葉に、晴香以外のふたりは意気揚々として「はぁい」と答える。
 晴香だけが、微妙な気持ちのまま頷いた。
 怒涛のような休みが終わった。
 本当に、火曜日の夕方退社した時はまったく考えもしなかった展開だった。まさか自分が休み明けには、北見晴香から久我晴香になっているなんて。
 ありえない、信じられないと今でも思うけれど、昼間晴香の携帯に来た孝也からのメッセージが現実なのだと告げている。

【今夜は早く帰るようにする】

 そのメッセージにわかったとだけ返信して、晴香はもやもやと考えを巡らせた。
 休み中は、荷物を運んだり婚姻届を出しに行ったりして比較的忙しくしていたから、晴香は夜は実家へ帰った。だから今朝もいつも通り実家から出勤したのだ。
 だがあらかたの荷物を運び終えて、母と実家に別れを告げた今夜からは孝也のマンションに帰ることになっている。
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