クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
 それから数日後。
 光琉は首を傾げていた。

 目の前で鏡原社長がそわそわと階下を見下ろしている。
 そして「ハァ」っと深いため息をつき、考え込み、彼はまたそわそわと階下を見下ろす。

 怪訝そうに眉をひそめているのは光琉だけではない。副社長の荻野も、光琉の隣で同じように首を傾げていた。
 クルリと彼に背中を向けた荻野が、こそこそと光琉に聞いた。

「どうかしたの?」
「さぁ、どうしたんでしょうねぇ?」

 振り返った先では、右に行ったり左に行ったりしながら、相変わらずため息をついている鏡原社長がいて、彼はしばらくそんなことを繰り返していたが、ふいに慌てたように廊下を走って行った。

「お? どこに行ったんだ?」

 荻野と光琉は、早速彼が階下を見下ろしていた場所に立った。

 キョロキョロと探していると、二階を歩いている彼の姿が見えた。
「あ……。いましたねぇ」

 鏡原社長が足早に向かう先に、女性の人影が見える。それは――。

「ウフフ、やっぱり紫織さんだ」クスクスと光琉が笑う。

「え? 宗一郎、なに? どうかしたの?」

「さぁ? 紫織さんに急ぐ用事でもあるんじゃないですか?」

 うれしそうに微笑んだ光琉は、クルッと荻野に向き直った。
「副社長。もしかして副社長って、ものすごーく鈍感?」
 怪しむように目を細めて、光琉は荻野を睨む。

「な、なに?」

「私が副社長にあげた誕生日のプレゼント。ちゃんと見てくれました? あれって手作りの特別バージョンだってわかってます?」

「え?」

 荻野も宗一郎と同じ日に誕生日プレゼントのチョコレートをもらっている。毎年の恒例のように何人かがプレゼントをくれるが、どれも開けてはいなかった。実を言うと冷蔵庫にそのまま入れてある。

 光琉からもらったチョコレートも実はまだ、開けてもいない。
「えっと」
 ポリポリと頭をかくようにして誤魔化した。

「――やっぱり。もう知らないっ」
「え?! ちょ、ちょっと光琉ちゃん? いや、宗一郎のと同じものじゃないの? いや宗一郎の次と言うべきか」

「社長には市販のものです!」

「え? あ、そう? え? ちょっと待って。え? だって光琉ちゃん、宗一郎のこと」

 クルッと振り返った光琉は、口を尖らせてキッと荻野を睨んだ。

「もう百回くらい言っていますよね? 私は社長を尊敬していますけど、それだけですって! 副社長なんか知らないっ!」

 光琉はプリプリと頬を膨らませて自分の席につくと、ツンと澄ましてパソコンに向かった。
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