クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
「今日はこれから花マルさんの歓迎会ですよ? 社長は、行かないんですか?って聞いたんですよ」

 社長秘書の光琉は、紫織と室井の二人をセットで言う時は”花マルさん”と言うことにしているらしい。

「でも、仕事の手が離せないらしくて、行かないって言ってました」
 そう言って、光琉はちょこんと肩を竦めた。

「ここも、二次会のカラオケ店も伝えてあるから、もしかしたら来るかもしれませんけどね」

「そうですか」
 紫織は複雑な思いを胸に、箸を置いた。

 ――もしかして、私と同席したくないから?

 そう思うと心がチクリと痛んだが。すぐに、まさかと思い直した。

 彼はもう立派な大人で、何百人という社員の先頭に立つ社長だ。
 いくら元恋人の顔を見たくはないとしても、表向きくらいは取り繕うだろう。

 ――あ、でも。
 と、ふと思い出した。

 そういえば、宗一郎は大勢の飲み会とかは好きではなかった。

 すると。
「社長、ここの焼き鳥好きなのに残念だなぁ」という声が聞こえてきた。

 ――え?
 紫織は隣に座っている荻野副社長に聞いてみた。
「鏡原社長は、普段から飲み会に参加するんですか?」

「もちろん。あいつは酒が好きだからね」
「――そうですか」

 彼は、確かにお酒は強かったけれど、無口で飲み会とかはあまり好きじゃなかった。

『飲み会、行かなくていいの?』
『紫織とふたりで飲んだほうがいい』

『でも私、お酒弱いから一緒に飲んでも楽しくないでしょう?』
『いいんだ別に。紫織がいれば、俺はそれで十分だよ』

 あの頃はそんなふうに言っていたのに――。

 昔はどうあれ、いまは社長なのだ。
 好き嫌いの問題ではなく、飲み会くらい出席して当然だろう。
 そう思うのに、なんだか寂しくなる。

 七年も経てば、変わりたくなくても同じではいられない。
 人も変わって当然だとは思うし、それを成長というのかもしれない。
 頭の中では理解できる。

 でもやっぱり悲しかった。
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