クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
 迎えた設立記念パーティの日。

「社長? どうして憂鬱そうな顔をしているんですかぁ? このおめでたい日に」

 呆れたように光琉が眉をひそめた。

「そんなことないだろ。俺は、そういう顔なんだ」

「もぉ」

「大丈夫だよ、そのために荻野がいるんだ」

「まぁそうですけどねぇ」

 光琉がクルっと首を回すと、副社長の荻野が爽やかな笑みを浮かべて来賓と話をしている。

 無口で無愛想な社長と違って副社長の彼は社交的だ。
 タイプの違うふたりだからこそバランスが取れているわけで、そう言われてしまうと光琉も返す言葉がない。

 それに、作り笑いの社長の顔なんて想像しただけで引くわぁー、と思いながら首をすくめた。

「帰っていいか? 今日はスピーチも荻野の番だしな」

「絶対にダメです。最後の最後にひと言くらいは挨拶しないと絶対にダメですからね」

「はいはい」
 うんざりしたようにため息をつき、視線を移した宗一郎がふと視線を止めた。

 ――ん?
 何とはなしに光琉はその視線が気になって振り返ったが、彼が何を見たのか全然わからない。
 もう一度、彼の顔をみれば、もう視線を戻していた。

「なんだよ」
「いいえ、別に」

「さて、しょーがねぇ。一応挨拶回りでもするか」
「はい、がんばってくださいね」

 光琉はもう一度、彼が見ていたほうを振り返った。
 結局何を見ていたかわからないが、ふと気になった人がいた。

 タタタと走っていく先にいたのは――。
「紫織さぁん」
「あ、光琉ちゃん。かわいい~、すっごくよく似合ってる」

「紫織さんこそ、すっごく素敵ですよ、着物。本当に素敵、私、着物のことは全然わからないけど、素敵なことはわかります! それはどういう着物なんですか?」

「ありがとう。これは友禅よ」
「友禅。京都のあの友禅ですね。なるほど、やっぱり日本人は着物ですねぇ」

 しみじみと光琉はため息をつき、紫織の着物をしげしげと眺めた。

 ――なんて上品な着物だろう。
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