茉莉花の花嫁
その日の夜。

清瀬は身支度を済ませると、家に火を放った。

自分が生まれ育った家が燃えたのを見届けると、清瀬はその場を離れた。

大正が終わって、時代は昭和を迎えた。

長い戦争を終えて、目まぐるしく変化して行く日本を間近で見ながら清瀬は生きた。

「全然変わってないな…」

トイレの鏡で自分の姿を見た清瀬は、呟いた。

変化する日本に対して、自分の容姿は黒鬼に“呪い”をかけられた当時のままだった。

老いることもなければ死ぬこともない、病気にかかってもケガをしても一晩眠ったら何事もなかったかのように治っていた。

激動だった昭和から平成へ、平成から令和へと時代は変わって行った。

自分の容姿は特に何も変わらないまま、清瀬は出会った。

“茉莉花の花嫁”――運命の女、嶋佐茉莉花に出会った。
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