茉莉花の花嫁
女郎花の前で茉莉花と出会って以来、清瀬は彼女を忘れることができなかった。

いや、忘れてはいけないような気がした。

(たった1回で、ただ一言をしゃべっただけなのに…)

茉莉花を忘れることができなくて、5年の月日が流れた。

どうして彼女を忘れることができなかったのか――それがわかったのは、あの日のことだった。

茉莉花が元恋人との待ちあわせ場所へと向かっていた時、清瀬は彼女とすれ違った。

その瞬間に彼女の躰から、あの日と同じ香りがした。

それが、ジャスミンの香りだった。

(この香りは…!?)

振り返った清瀬が見たものは、後ろ姿の茉莉花だった。

同時に気づいた。

(間違いない…)

「――茉莉花の花嫁だ…」
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