茉莉花の花嫁
第7章・勿忘草の告白
「――ハハッ…」

清瀬は自嘲気味に笑いながら、フラフラと歩いた。

当てもなく、フラフラと歩き続けた。

(そりゃ、そうだよな…。

彼女は俺よりも、現在を生きている彼の方があっているんだ…)

先ほどの茉莉花が元恋人に言い寄られている場面を思い返し、清瀬は心の中で呟いた。

ズキン…と、背中に刻まれた黒百合がうずいた。

「――俺は、死ぬんだろうな…」

清瀬は呟いた。

死が一刻、また一刻と近づいてきているのを、清瀬は背中に感じていた。

もう自分は、これ以上を生きることはできないみたいだ。

「――いや、もう充分に生きたか…」

大正、昭和、平成…そして、令和と自分は充分に長い時間を過ごした。

4つの時代を生きたのだ、もう充分だろう。
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