茉莉花の花嫁
どこまで歩いたのだろうか?

気がつけば周りには人がいなくて、目の前の景色は木と田んぼばかりだった。

「ちょうどいいのかもな…」

自分には身内もいないし、親しくしている人間もいない。

誰にも気づかれずに、1人で死ぬにはピッタリだ…と、清瀬は思った。

ふと足元に視線を向けると、鮮やかな青い小さな花が咲いていることに気づいた。

「勿忘草だ」

この花の名前を清瀬は知っていた。

花言葉や文化から、物語や歌詞などでよく登場する花だ。

「俺を忘れないで…って言ったら、彼女はどんな顔をするんだろうな」

清瀬はそう呟くと、その場に座り込んだ。

背中の黒百合がズキズキと痛み始めている。

後少しで、死は近づいていた。
< 62 / 70 >

この作品をシェア

pagetop