結婚から始めましょう。
少々強引な南田に「ふん」と鼻を鳴らした純也は、不本意な気持ちを明確にしつつ、とりあえず腰を下ろしてくれた。

南田純也、32歳。独身。カサブランカの営業課主任。
今は状況が状況なだけに不機嫌さを隠そうともしないけれど、資料によると性格は温厚で真面目。仕事熱心な人物らしい。
離婚歴あり。27歳の頃、友人の紹介で同年代の女性と結婚。しかし仕事が忙しくて、それに不満を募らせた奥様が共通の知人と浮気。よって、約2年の結婚生活は終止符を打つことになった。
以来、仕事一筋で浮いた話は皆無。

「10分だけですよ」

彼もまた人目を気にしたのか、とりあえず話を聞いてくれそうだ。

「お忙しいところをすみません。改めまして私、未来アートのアドバイザーの高橋と申します」


ー「未来アート」 アドバイザー 高橋 桃香ー


最初に受け取ってもらえなかった名刺を再び差し出すと、純也は渋々手に取った。まあ、見もせずにポケットに入れられたけど。
ただ聞く姿勢になったことに、南田がホッとしているのがわかる。ここからは私のターンだ。



< 2 / 138 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop