結婚から始めましょう。
それから、正直私の心の中には会ったことすらない父親の存在が影を落としている。お腹に自分の子どもを宿した妻がいるのに、他の女性の元へ行ってしまった父。

母と2人、精一杯な生活をしてきたからこそ思うのは、浮気だけは絶対に許せないということ。
特別かっこよくなんてなくていい。稼ぎだって、2人合わせて普通に暮らせるだけあればいい。
そりゃあ、同居だ介護だと言われたら二の足を踏むだろうけれど。

この10日間、とりあえず断るという直結的な選択肢がなくなったどころか〝条件〟なんて考え始めている自分がいた。
ただ、考えれば考えるほど不釣り合いだと実感して、何一つ具体的にならないんだけど。




「さあ、桃ちゃん時間よ」

夏真っ只中の今日。堅苦しくないようにと言われて、薄いピンクのワンピースを選んだ。

待ち合わせ場所までは華子が送ってくれる。どうせなら一緒に来て欲しいんだけど。

「若い人の邪魔はできないわ」

なんて笑顔でかわされてしまった。

「それじゃあ、帰りも連絡くれたら迎えにくるから」

「時間がわからないし、帰りは電車で帰るよ」

「そう?じゃあ、帰ったら連絡してね」

不安と緊張からうじうじする私を残して、華子はさっさと帰っていった。




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