青いスクラブの王子様。~私が惚れたのは、一等級の外科医だった件~
キツネ上司




真冬の突き刺すような鋭い風と共に、雪がちらつく土曜日の昼下がり。
食品サンプル工場の事務室は今日も、今のところ…閑散としている。

カタカタとパソコンを打つ音だけが響く中、この場には似ても似つかない鈍い音がオフィス内に響き渡った。


「おい、鳥飼!!ちょっとこい!」


ガタンッと音を立てて立ち上がり、この狭い部屋に罵声をあげたのは、部長の浪川(なみかわ)。
四十代後半の彼は、毎日このオフィス内の誰かにいちゃもんをつけては怒鳴り散らさないと生きていけないパワハラオヤジだ。

そして本日、浪川部長のかっこうの餌食となったのは、私、鳥飼(とりかい)みやび。

おずおずと立ち上がり、真っ赤な顔で奥の椅子にふんぞり返っている浪川部長の前に立つ。

あぁ、今日もキツネみたいな顔。
ケケケッって聞こえてきそうだよ。
というか最近、私のご指名多くない?


「なんだこれは!どうなってんだっ!
今日中に直せぇぇ!」


唾を飛ばしながら叫ばれ、渡されたのは
分厚く重なったA4用紙の束。
その重さは米一升分はあると思われた。

ずしりと容赦なく腕に預けられ俯いていると、浪川部長はふんっと鼻を鳴らしてオフィスを出ていってしまった。

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