いつまでも…片想い  若葉色
一歩前へ

 少し秋めいた頃 、朝掃除の当番の為にいつもより早い出社になった。

 彼の顔も見れなくてテンションは上がらないのに、朝から喉が痛くて体調もすぐれない 。

 出社が早かった為お弁当ではなく社食のうどんにしたが食欲が出ない 。

 綾乃には顔合わせてすぐに 「 顔色 悪くない?大丈夫? 声もおかしいよ」と訊かれた。

「 あまり良くないけど大丈夫、今日は残業しないで早く帰るね 」本当に声が枯れてきてるかも…

 ケータイで何かしていると思ったら、

「そーしなさいよ、 それと"七海の彼"の駅前に仕事のあとでも受診に間に合う病院があるから行って来なさいね。 情報は七海のケータイに送ったから 」と同時に着信の音がなる。

「 はい! 了解しました 」
" 七海の彼 " には語弊はあるがそう言われるとちょっと嬉しかったりする。

 私の変化にいち早く気付くから少し困りものだが、今日はありがとうかな。
 仕事で悩んだときも、好きな人が出来た時も、切っ掛け記念日で浮かれた時も、 見破られてしまう。尋問のように聴かれた経緯があるものの、心配してくれているんだよね。

「 ほんとは付き添いたいけど、残業確定なのよね 」と渋い顔をしていた。

「 気持ちだけで十分だよ、ありがとう」

  食べれるうちは頑張って食べようと うどんをすすった。

「 よっ! 社食は珍しいな 」同期で営業部 の中西 航 (なかにし わたる)が来た。私の位置付けではちょっと騒がしいが、話し易くていい人だ。

「 今日は七海が朝当番だったから 社食なの 」

「 分かっていればオレも早く来て合流したのにな 」

「 合流って、飲み会でもあるまいし… 別に合流しなくてもいいよ」

「なんだよ、冷たいヤツだなぁ。 飲み会と言えば近いうちにまた同期会だな、 参加するだろ? 」

「 まぁ残業なければ参加するよ !ねっ七海? 」

「 うん 」2人のテンポ良い会話に乗り遅れ、やっと発した言葉だった。

「 楽しみだな、その日は残業にならないよう頑張れよ !じゃあな」 笑顔で去る中西に彩乃と2人で手を振った。

 休憩も終わり、 仕事を始めるが身体の節々が痛く段々と寒気がしてくる。ヤバい熱が上がってるかも…
 
 こんなにも定時まで長く感じた午後は久々だ。主任が心配して声を掛けてくれたが時間もあと少しなので頑張らせて貰う。

 定時とともに片付け早々に退勤した。
「 お先に失礼します 」の挨拶に
まわりの人も私の体調悪いことバレバレで 「 身体早く休めてねー 」「 お大事にね お疲れ様 」と声を掛けてくれた。みんなとても優しい。

 綾乃には 退勤して病院行くことをLINEした。


 駅前の病院の場所はすぐに分かり、受診をしたら「 扁桃腺炎」と診断され 熱も 38℃あり食欲もない事から点滴をすることになった。ベットに横になると とても楽だった。直ぐに寝てしまったのか気付けばもう点滴が終わりそうになっていて、時間も20時過ぎていた。

 点滴してもまだ身体はだるいので、タクシーに乗ろうかとも思うが節約の為やはり電車で帰る事にする。薬局で処方された薬を受け取り、駅へ向かっていると声を掛けられた。

「あれ? こんばんは、この間は席をありがとう」あの彼だった!

「 こんばんは 」自分の声にハッとする。この声、枯れているのバレバレだ 。

  体調悪いのも気付かれてしまうかも、どうせならこんな姿は見られたくなかった。 逢えて 嬉しいのか悲しいのか わからない。

「 あれ?風邪か? 」

「 今、そこの病院の帰りで 扁桃腺炎でした 」

「 家は近いの?一人で帰るのはムリだろ、送るよ 」

「 いえ、大丈夫です。電車に乗れば早いですし、点滴もしましたから直ぐに良くなります 」

「 点滴が必要なくらいなら、送るの決定だな? さ、行くぞ 」

「 あの、駅はこっちでは?」

「 ああ、家こっちだから車で送るよ。でも歩くの辛いよな、そこのコンビニで待っていてくれないか?15分くらいで戻って来るから イートインスペースで座ってまってて 」 コンビニの前に私を残して去って行った。

 ホントに送ってくれるの?うそみたいな偶然。

 買い物もしたかったからちょうど良かった。店内に入り 補水のドリンクや乾燥スープ プリン ゼリー をかごに入れる。明日の分もと多めに選び会計を終わらせたがだるい身体にはちょっと重いかも。

 イートインスペースへ向かう前に彼が店内に入って来た。

「 待たせたな 」と私の荷物を持ってくれ凄く助かる。こんなに弱っているとは自覚していなかった。

 車へ案内してくれ、助手席を開けてくれた。荷物は後ろへ載せている。

「 乗れよ 」

「 はい、お願いします 」

 家族以外の車に乗るなんて ここ何年もない。身体がふらふらなのに緊張のあまりどうして良いのかわからない。そうだ、シートベルト閉めなきゃと慌ていると、シートベルトを掴み閉めてくれた。あまりの近い距離にドキドキしてしまう。


「 ナビ設定するから住所教えて 」

 住所を告げると自宅のアパートが設定された。

「 ここで合ってる? 出発するよ 、20分くらいで着くな、 身体辛かったら目を閉じていていいから 」

 タイムリミットは20分、いろいろ聞きたい。体調が悪くても話したい。

「 はい 、ありがとうございます。
あの遅くなりましたが、 私は竹内 七海です。名前教えて貰ってもいいですか? 」

「 そうだ 知り合いのつもりだったけど名前も知らなかったな、オレは 神崎 彰汰 よろしくな 」

「 よろしくお願いします。早速ご迷惑お掛けしてすみません 」

「 こんなの迷惑でもないよ。 食欲はあるのか?」

「 食欲はありませんが さっきプリンを買いました 。 それに冷凍庫にアイスのバニラがあるので大丈夫です 」

「 そうかー 喉が痛い時は冷たいものも良いね。 一人暮らしなんだろ?誰か頼れる人はいるのか?」

「 はい、会社の同期で頼れる友達がいます 。今日の病院も調べて薦めてくれました」

 彼との距離にドキドキしてしまう。運転姿も横顔も格好いい 。

 ハンドル握る指も男らしくゴツゴツ感があり、あの手で頭をポンポンされたい。

 只でさえ熱が高いのに、想像するだけで 余計に熱が上がりそうだ。

「 竹内さん…竹内さん …着いたよ」

 ハッと気付くとアパートの前。寝てしまったのか、恥ずかしい。

「 車はどこへ置けば良い? 」

「 そこの5番へ入れて下さい」スムーズな運転さばき、神崎さん格好良すぎです。

「 部屋まで送るから 」と車から降りる。

 断ろうかと思いながらも甘えたくなる。

「 2階の奧の203号室です 」

 私を支えるように歩いてくれる。
部屋のドアを開けお礼を言おうとするが、

「 連絡先登録しておくからケータイのロックを外して貸して 」

 言われるままにケータイを渡した。

 神崎さんが操作していると神崎さんのケータイがなる。 頷いて確認するとケータイを返してくれた。


「 何か欲しいものがあったり、体調悪くなったら連絡して、何時でもかまわないから… あとさオレが言う事ではないかも知れないけど、知らない人の前で部屋を開けない方がいいよ 」と私を諭しながら買った荷物を玄関に入れてくれる。

「 一人で大丈夫?」


「 はい大丈夫です。いろいろとありがとうございました 」


「 水分とってゆっくり休めよ、 お大事にな 」と帰って行った。

 私は着替えてベットに入り、ケータイを確認した。"神崎 彰汰" と表示され嬉しくなる。

 綾乃には《お疲れ様 病院へ行ったら扁桃腺炎で点滴して帰ってきました 心配掛けてごめんね 》とLINEして、意識を手放した。
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