揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
大学生活の間に磨いた英語力を活かせる仕事がしたい。その思いで、活動を続けて来た鈴が、就職したのは、海外にも流通ルートを持つ食品メーカーだった。


海外との取引となれば、英語は必須。配属されたのは希望した営業事務だったが、母親からは


「営業事務なんて、中途半端な仕事じゃなくて、なんで営業そのものを希望しないの?」


と発破を掛けられてしまった。


「メーカーの花形は、なんと言っても営業。男が営業、女は後方事務なんて時代じゃないのよ、今は。いい?鈴、これからは自分のスキルを磨いて、活かして、どんどんステップアップを目指す時代よ。性別なんか、関係ないんだから。」


「うん、それはわかってるよ・・・。」


「まさかとは思うけど、何年か働いたら結婚して、家庭に入るなんて、今どきあり得ないからね。男なんて、アテにならないし、何考えてるかわからない生き物なんだから。お母さんの若い頃は、そりゃ女が社会で男性と張り合って、仕事することに、随分風当たりも強かったけど、そんなのに負けなかったお陰で、惨めな思いもしないで済んだ。まして、今はもうそんな時代じゃないんだから、とにかく鈴には、思う存分羽ばたいて欲しいの。」


母の言葉に鈴は頷いていたけど、内心は少々ウンザリしていた。


(お母さんの言いたいことは、わかるけど、性格の問題もあるし、私は営業でバリバリやるタイプじゃない。)


という自己分析がまず1つ。それに母が娘の恋愛、結婚というものに、ネガティブな感情を抱いていることにも困惑していた。


なんだかんだ言って、母は父を愛していた。それだけに父の裏切りに、心に深い傷を負ってしまっていることには、鈴も気付いている。


だが、その反動で、母が恋愛、ひいては結婚そのものに否定的な考えになり、それを自分にも押し付けようとしていることには、反発を感じないわけにはいかなかった。


(私だって、専業主婦になりたいなんて、思ったこともないし、なるつもりもない。でも、女が社会でステップアップすることと、恋愛や結婚が両立しないなんて、それこそお母さんの考え方が古いよ。)


しかし母の思いもわかる鈴は、面と向かって、そう反発することはなかった。
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