揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
それは、眩しい日差しが容赦なく照りつける8月のある日。2人の少女が硬い表情で、電車に揺られていた。


「もうすぐ着くよ。」


1人の少女が、そう告げると


「うん。」


もう1人の少女が、頷いた。同じ車両に乗っている同世代の若者達が、みんな明るく、はしゃいでいる中、彼女達の雰囲気は、やや異質だった。


やがて、列車が駅に到着。若者達の降車の波の中に、彼女達もいた。改札を出ると、道路一本挟んで、砂浜と海岸が広がり、既に楽しそうな別の大勢の若者達の姿が、そこにはあった。


「いよいよ来たね。」


その綾瀬怜奈(あやせれな)の言葉に


「うん。」


雨宮鈴(あまみやすず)は、さっきと同じように、短く頷く。


「行こう。」


「うん。」


鈴と怜奈は、同じ女子高に通う2年生。心弾むはずの海水浴場を目の前に、彼女達が、なぜこんなにぎこちないのか、それには理由がある。


横断歩道を渡り、目についた海の家に向かう。所定の料金を支払い、更衣室を借りる。そして、着替え・・・。


「鈴、着替えた?」


「うん。」


「じゃ、行くよ。」


「うん。」


促された鈴は、おずおずと怜奈の前に立った。


「やっぱり、似合ってない、かな?」


「そんなことないよ。可愛いよ、鈴。」


「そう・・・。でも、派手だったかな?」


「そんなことない・・・と思うよ。」


必死になって、問い掛けてくる鈴に、怜奈も自信なさげに答える。


そんな会話を交わしながら、2人はやはり、おずおずとビーチに出た。


「凄いね・・・。」


「何が?」


「露出が・・・。」


「そりゃ、水着だからね。」


「でも、ビキニばっかりじゃないよ。」


「そう、だね・・・。」


「私達、騙されたのかな?」


「そんなことない・・・と思うけど・・・。」


そんな会話を交わしながら、そそくさとTシャツを着込もうとする鈴の手を


「取り敢えず、海に入ろうよ。」


と意を決したように言った怜奈が引っ張る。


「あ、怜奈、ちょっと待って。」


鈴が慌てた声を出すけど、このままでは埒が明かないと見た怜奈は、構わず歩き出した。
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