揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
週が明けて、少し経つと


「鈴と神野さん、とうとう一線を超えたみたいだよ。」


「やっと?長かったねぇ。」


なんてヒソヒソ話が鈴の同期生を中心に囁かれるようになった。それは事実だけど、そのことはもちろん、今まで一線を超えてなかったことも、少なくても社内では、誰にも話してないはずなのに、なんでこんな話が流れてるんだろうと、鈴は困惑したが


「えっ、そんなの2人見てたら、すぐわかった。」


「わかりやすいもん、あんた達。」


未来と真純に、あっさり決めつけられて、言葉を失う。


(これじゃ、プライバシーも何もあったもんじゃないよ。)


下手に騒ぐとヤブ蛇になるから黙っているけど、鈴は内心むくれていた。


更に困ったのは


「あのお堅い2人が、そうなったからには、もうゴールインも間近だね。」


なんて、勝手に煽られてることだ。


ここしばらく、鈴の心をかき乱す存在だった岡田亜弓は、達也から個人的感情はないとハッキリ申し渡されて、大泣きしたらしいが、達也と鈴の馴れ初め等を誰かから聞いた途端、ほとんど会話を交わしたこともなかった鈴の前に現れ


「神野主任と雨宮さんのお話、お聞きして凄く感動しました。知らぬこととは言え、お二人のお邪魔虫になって、申し訳ありませんでした。お二人のお幸せを及ばずながら、お祈りしています。」


と顔を紅潮させてまくしたてた上に、両手で握手を求められたのには、はっきり言って閉口した。


(なんで、みんな私達のことで、勝手に盛り上がってるの?)


さすがに困惑どころか、怒りすら感じていたが、さりとて元来大人しい鈴には、結局周りをたしなめる術もない。


更に鈴がもどかしかったのは、達也が亜弓にキチンと話をしたことを除けば、この周囲の雰囲気に全く対応しようとしないことだった。


「私達の間で、何にも決まってないし、何にも話してないことなのに、なんでこんな騒ぎになっちゃってるの?」


たまりかねて、そう訴えても


「人の口に戸は建てられないからね、仕方ないよ。あんまり気にしないようにしようよ。」


と言うと、あとは淡々と仕事にうちこんでいる。


(まるで他人事みたい。達也さん、何考えてるの?)


そんな達也に、鈴は初めてと言っていいくらい、不満を抱いた。
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