眠れない夜をかぞえて
眠れない夜をかぞえて
一週間の休みが終わる。無断欠勤のように無理やり休んでしまった夏休みだった。

私の心に区切りをつける最後の仕上げがある。

私はスマホを持ち、耳に充てる。留守番電話のメッセージを再生する。

『美緒、俺。ごめん、改まって。どうしても今伝えたくて、気持ちを抑えられなくて、電話をしちゃったんだ。バイト中だった? えっと……俺は美緒が好きだ。とっても大好きだ。今日会いたい、会ってちゃんと気持ちを伝えたい。また電話するよ、バイト頑張れ』

再生が終わった。なんて短いんだろう。

もっと聞きたい、最後にもう一度再生してもいいだろうか。

終わりにしたくない。

だめ、哲也はそれを望んでいないはず。

「哲也、本当にさようなら」

消去をすれば、哲也に心配をかけずに前へ進める。でも指が震えて言うことを聞かない。

スマホを胸に抱きしめ、覚悟を決める。

「ありがとう、哲也」

私の指は哲也のメッセージを消去した。

メッセージは消去したけれど、いつまでも哲也の声を、いつまでも哲也を忘れない。

私はそのまま渉に電話をする。

『姉ちゃん!』

心配をしていたのだろう。渉は直ぐに電話に出た。

「そうよ」

『心配したんだぞ、何処に行ってたんだよ……瑞穂が、瑞穂が心配して』

「分かってるよ。あのね、お父さんとお母さんに渉から伝えて欲しいことがあるの」

『なんだよ』

呑気な私に、怒っているのだろう。ぶっきらぼうに答える。

「もう、大丈夫だからって。前に進むからって」

『それって?』

「哲也を想い出にしてきたの。渉にも心配をかけたわね。ごめんね」

『姉ちゃん……大丈夫なのか? 俺、そっちに行こうか?』

「ばかね、子供じゃあるまいし。それにこれから……これからお姉ちゃんは好きな人に会いに行くのよ」
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