【短】キミの髪を、ほどきたかった。

She already


3月1日。
透明に澄んだ風が、結った髪を静かに撫でる。

「最後となりますが、学園の更なる発展をお祈りしつつ、答辞の言葉とさせていただきます」

壇上に立つ幸と、揃って礼を重ねる私たち。

きっとみんなが、それぞれ想いを抱えて前を見据えている。
そんななか、私はある人物から目が離せない。

『なんでずっと……奪えなかったんだろう』


一週間前の放課後。
意味なんて聞けずに残った、あの言葉。

スラッと伸びた斜め前の背中を、ぼうっと見つめる。

無駄に似合うあのブレザー姿も、今日で見納めか。


「ほんと、学ランじゃなくてよかったよなぁ(かおる)

卒業式を終えた後の教室で、男子たちが彼を囲む。

「ブレザーだと、第二ボタンの代わりってなんになるんだ?」

「あれじゃね、ネクタイ」

「そんなことよか、写真撮ろうぜ。ほら」

私は遠目でそれを見つめながら、喉を詰まらせた。

< 16 / 24 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop