この続きは、彼の部屋で

Ⅰ 表と裏


茉莉恵(まりえ)の彼氏って真面目だし、優しいし、すごく大切にしてくれそうだよね」

「羨ましい~、私も未来君みたいな爽やかなイケメン彼氏が欲しいよ」


友達には羨望の眼差しを向けられるけど、私は曖昧に笑顔を返す。

皆は、彼の表側しか知らないから。





放課後。

同じクラスの彼が、一番前の私の席まで迎えに来た。


「茉莉恵、一緒に帰ろう」

「うん」


他愛ない話をしながら廊下を歩いていたら、後ろから誰かに声をかけられた。


「未来、お前の彼女の忘れ物」


少し長めの、灰色がかったグレージュの髪。
未来君の友達だ。


差し出されたのは、私のノートだった。

気だるげで目立つ外見の彼は、意外と親切だったりする。


「あ……、ありがとう久木(ひさぎ)君」


考えなしに本人へ直接お礼を言ってしまい、凍りついた。

はっとして隣を見上げたけど、特に彼が怒っている様子はない。


瑛翔(えいと)。助かったよ、ありがとう」


私の代わりに受け取った彼は、爽やかな笑顔を見せた。

そっけなくうなずいた久木君の背中を見送って、優しく私の肩を抱いて歩き出す。
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