この続きは、彼の部屋で
Ⅰ 表と裏
「茉莉恵の彼氏って真面目だし、優しいし、すごく大切にしてくれそうだよね」
「羨ましい~、私も未来君みたいな爽やかなイケメン彼氏が欲しいよ」
友達には羨望の眼差しを向けられるけど、私は曖昧に笑顔を返す。
皆は、彼の表側しか知らないから。
*
放課後。
同じクラスの彼が、一番前の私の席まで迎えに来た。
「茉莉恵、一緒に帰ろう」
「うん」
他愛ない話をしながら廊下を歩いていたら、後ろから誰かに声をかけられた。
「未来、お前の彼女の忘れ物」
少し長めの、灰色がかったグレージュの髪。
未来君の友達だ。
差し出されたのは、私のノートだった。
気だるげで目立つ外見の彼は、意外と親切だったりする。
「あ……、ありがとう久木君」
考えなしに本人へ直接お礼を言ってしまい、凍りついた。
はっとして隣を見上げたけど、特に彼が怒っている様子はない。
「瑛翔。助かったよ、ありがとう」
私の代わりに受け取った彼は、爽やかな笑顔を見せた。
そっけなくうなずいた久木君の背中を見送って、優しく私の肩を抱いて歩き出す。
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