ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜
1. 4月

隆春




 我が社は、オフィスビルの3フロアを借りている。
 上フロアには社長や重役部屋と大会議室。中・下フロアにそれぞれの部署がある。
 俺が配属されたシステム課は、中・下フロアに2チームずつに別れていて、俺は中フロアのチームだ。

 今日はチームの新人歓迎会。
 隣のチームと合同で、新人は合わせて3人いる。俺と中村さんと、隣のチームの井上君だ。
 井上君は、元気で明るい雰囲気で、真ん中のテーブルにいる先輩達の中に溶け込んでいる。

 俺は隅にいて、小田島さんと、隣のチームの村田さんと一緒に飲んでいた。村田さんは小田島さんと同期らしい。
「須藤君は、なんかスポーツやってたの?って、よく聞かれるでしょう。背が高いから」
 そう言う村田さんも、背は俺と同じくらい高い。
「はい。村田さんもですか?」
「そうなんだよ。でも俺はね、運動はなんにもしてない。中学からずーっと吹奏楽部」
「え、意外ですね」
「だろー?」
「なんの楽器なんですか?」
「トロンボーン」
「カッコいいですね」
「そうかー?地味だけどな。でも、俺は気に入ってんだけどね。ああ、そんで、須藤君はなにか運動してた?」
「中高でバスケしてました。でも補欠です。強豪だったんで」
「へえー、そっちこそカッコいいじゃん」
 村田さんは話している間にも、ビールをガンガン飲んでいる。段々酔っ払ってきているようだ。
「モテそうだよねー、須藤君」
 小田島さんがうんうんと頷く。
「それはないです」
 モテた記憶は今のところない。
 俺が首を振ると、小田島さんがため息混じりに言った。
「今日、ほんとは総務も合同でって話もあったんだよ」
「えーそうなの?」
「合同だったら須藤が囲まれて大変だろうなって、課長が断ってた」
 ……え、俺?
「良かったねえ須藤君、課長は味方だよ〜」
「総務のお姉様方には気に入られても嫌われても大変だからな。当たり障りなく、が1番だ。あ、もちろん須藤がああいうのが好きなら止めないからな」
「……ああいうのってなんですか?」
「キャアキャアした女っぽい女が好きならってこと」
「ああ、そういうのは……遠慮します」

 研修の時の頭痛が蘇る。
 それよりも仕事を早く覚えたい。

 小田島さんは軽く笑った。
「聞いてるよ。研修の時、女の子達に囲まれて大変そうだったって。だから課長も合同の話は断ったんだよ」
 今日はお子さんの誕生日だから、と来ていない課長に、心底感謝する。
「ウチのチームは、ああいうのが苦手な人多いからさ。課長もそうだから、気い遣ってくれて助かるよ」
「こっちのチームは違うらしいぞ」
 村田さんが真ん中のテーブルを顎で差す。
「若い男共はやっぱりわかりやすい女の子がいいみたいだよ」
 そういう人が大半だろうな、と思う。
「まあ、場が華やかにはなるけどな」
 小田島さんが言うと、村田さんがニヤッと笑う。
「華はウチの課にもいるじゃんか」
 村田さんが指差す方を見ると、貸し切りの座敷の反対側の隅に、本田さんと中村さんがいる。
「中村さんはいい感じだよね、キャアキャアしてなくて。いいなあ、小田島のとこ本田さんもいるしさ〜。少ない女子を独り占めすんなよ〜」

 システム課は、男の方が多い。女性は、大体チームに1人か2人。村田さんのチームには、今は女性はいない。

「独り占めじゃないし。大体そっちはお前が少ない女子をかっさらってったんだろ。何言ってんだ」
「えー俺のせいー?」
「当たり前だ」
 どういうことかと思っていると、小田島さんが教えてくれた。
「村田の奥さん、同じチームの後輩なんだ。去年結婚して辞めちゃったけど。6月だっけ?予定日」
 村田さんは照れながら頷く。
「村田さん結婚してるんですか?」
「一応指輪してんだよ」
 ほら、と左手を見せてくれる。確かに、結婚指輪らしい。人の手なんて、余り気にしていなかった。
「もうすぐ里帰りなんだろ?」
 小田島さんが話を振ると、村田さんは頭をユラユラさせながら顔をデレッとさせる。
「そうなんだよー、また1人暮らしになるんだよなー。気楽だけどさー、さびしーよー」
 村田さんは大分酔ってきているらしい。
 水かお茶を飲んだ方がいいんじゃないかと思って、呼び出しボタンを押そうとしたら、店員さんが来た。
「失礼しまーす、お冷やお持ちしましたー」
 水の入ったジョッキを3つ置いていった。
「ほら村田。飲め」
 小田島さんが頼んだんだろうか。そんな素振り見えなかったけど、いつの間に?
「おー」
 村田さんは水を一口飲んで、部屋の反対側の隅に向かってひらひらと手を振った。
 見ると、本田さんが小さく会釈している。
「本田さんは相変わらず気がきくねー」
 はい、と村田さんが俺の前にも水を置く。
「須藤君お酒強そうだから、いらないんなら俺もらうから言ってね〜」
「あ、いえ、いただきます」
 酒は強い方だけど、歓迎会から酔っ払う訳にはいかない。ありがたく水をもらう。
「本田さんが頼んでくれたんですか?」
「そ。本田さんはねー、よく見てるよねー」
 本田さんの方を見ると、目が合った。
 会釈したら、ニコッと微笑んでくれた。
 ちょっとドキッとした。
 ドキッとした自分に驚いて、ビールを飲んだ。



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