転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました
プロローグ

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サマラは燃え盛る炎に包まれながら、最後の力を振り絞って瞼を開けた。

様々な薬品からあがる有毒な煙が目に染みて視界を霞ませる。瞳に幕を張っていた涙がスゥっと流れ落ちたとき、一瞬視界が晴れた。

辺りは炎に包まれ、燃えた薬品や薬草から毒々しい煙や刺激臭が発生し部屋に充満している。そして目の前には巨大な異形の魔人と――金色の髪の少女を抱きしめて守る、黒い外套姿の男がいた。

「……おとう……さま……。助けて……」

サマラは目の前にいた男にそう乞うた。手を伸ばしたかったが、怪我をしているせいで力が入らない。

男は月色の瞳で刹那、足もとに倒れているサマラを見やった。
しかし手は差し伸べられることなく、彼は氷のような声で言い放つ。

「俺を父と呼ぶな。外道が」

サマラの緑色の瞳に、絶望の色が浮かんだ。
絶望で見開かれた瞳に映るのは、自分の父親が世界で一番大嫌いな女を抱きしめ守る姿。「大丈夫だ、リリザ。お前は俺が守る。安心しろ」と、欲しかった言葉を世界で一番大嫌いな女に与える父の姿。

「どう、し……て……」

有毒な煙を吸い込んだ喉からは、もうかすれた声しか出ない。
悲しみか、煙のせいか、再びサマラの瞳が涙で曇る。ぼんやりとした視界の向こうで魔人が不気味に動いたのが見えた気がした。

次の瞬間、サマラは大爆発に巻き込まれ痛みや熱さを感じる前に――己のしてきた悪業を悔やむ間もなく、命を失った。


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