転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました
「レ……レヴ……」

やがて眩い光は優しく煌めく粒子になり、ふわりと散っていった。
サマラの腕の中に残ったのは、人間と同じぬくもりも重さも感じるレヴだ。砂になって消える前と同じ、十六歳のレヴの姿だ。

「これは……?」

初めて知る奇跡を目撃して、ディーも驚愕の表情で見ている。
サマラは震える腕でレヴをギュッと抱きしめた。温かく、そして……ゴーレムのときにはなかったはずの、心臓の鼓動が聞こえる。

ゆっくりと開かれた瞼から、金色の双眸が覗く。
レヴは「……あれ?」と呟くと、キョトンとした表情を浮かべて言った。

「俺……どうして? 消えたはずじゃ……」

「レヴ!!」

彼の命を感じて、サマラは抱きしめる腕に力を籠めた。感激と喜びが胸に溢れすぎて、どうしていいかわからない。
自分でも何が起こっているのかわからないが、とにかくレヴは今ここにいる。生きて、ぬくもりを持って、心音を響かせて、この腕の中にいるのだ。

「レヴ、レヴ~! うわぁぁん!」

幼子のように泣きじゃくるサマラにレヴはポカンとしていたけれど、やがて照れくさそうに微笑んでギュッと抱きしめ返した。

「ごめん、また泣かせた」

「馬鹿、馬鹿ぁ! 何回泣かせる気よ、レヴの馬鹿ぁ! もう勝手に消えたりしたら許さないんだから!」

「ごめん。……ありがとう、サマラ」



――『奇跡の魔法、それは私の愛』。
それは、『魔法の国の恋人』のキャッチフレーズだ。
どうして主人公でもない悪役令嬢の自分が奇跡を起こせたのか、サマラにはわからない。
けれど思うのだ。この『魔法の国の恋人』の世界だからこそ、サマラでも愛の力で奇跡を起こすことが出来たのだと。

もしかしたら奇跡はとっくに始まっていたのかもしれない。サマラが破滅エンドを回避するため、ディーに愛されようと決めたときから。
ディーを愛し、ディーに愛されるたびに奇跡の力は強くなり、レヴを愛したことでその力は最高潮を迎えた。主人公のチート能力である『奇跡の光』を使えるほどに。

(……もしかして、六人目攻略の隠しシナリオってサマラが主役だったりする?)

ふと、そんなことも頭に浮かんだが、もうどうでもいいと思ってサマラは頭を小さく振る。
誰が主役で誰が悪役令嬢だってかまわないのだ。なぜなら今ここにレヴがいて、ディーがいて、サマラは大切な人たちに愛されて最高に幸せなのだから。


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