新人ちゃんとリーダーさん
バイトリーダー鬼頭桜雅

 ぶち犯してぇ。
 常に頭のどこかにあるその欲望のままに動きそうになった手を気合いと根性で制し、「助かる」と玄関の扉を開けた。

「お、お邪魔、します」
「ん」

 脱いだ靴をきっちり揃え、スリッパを履いていいのか悪いのか分からずおろおろしている女を見て、いやチョロ過ぎだろ大丈夫かお前と若干の呆れを頭の中で吐き出しながら、オートロックだからと普段は触りもしねぇ手動の鍵も今日ばかりは施錠した。

「飲みもん、取ってくる。座ってろ」
「あ、はい」

 リビングへと連れて行き、ソファに座る事を促す。どこに座ったらいいのだろうかとわたわたしたあと遠慮がちに端へちょこりと座るものだから「んん"っ」と思わず声が漏れた。
 もはや小動物にしか見えねぇそいつに、己が今から(おこな)おうとしている事を考えると罪悪感が多少なりと湧く。けれどやめようと思わねぇのは、それ以外の方法が現状思い付かねぇからだ。苦肉の策だ。仕方ねぇだろ。そもそも、ソファに座って控えめにきょろきょろしているあの女がもう少しチョロくなくて、もう少し週一で開かれるご飯会の意味を考えられる人間であったならば、俺だってこんな凶行に及ぼうなんて思わなかった。
 きっかけは何だったか、なんて覚えてねぇ。ただ、今までバイトとして来た奴らと違って、無駄にベタベタしねぇし、気色悪ぃ猫なで声を出したりもしねぇし、何より怒鳴ろうが頭を(はた)こうが暴言を吐こうが「さっきはすみませんでした!フォローありがとうございます!」って毎回ご丁寧に言いに来るのが存外悪くなかった。
 魔の三日が過ぎ、一週間が経ち、もうそろそろ一ヶ月になるなという頃、新人バイトを除いたバイトとオーナーを混ぜた面子で飲みながら「顔は全く好みじゃねぇけど普通に可愛い。あと笑うとくそ可愛い。ちょこちょこ動くのもくそ可愛い捕まえたくなる。要領が良いわけじゃねぇけどっつうか寧ろ良くねぇからフォローしてやりてぇつうか護ってやりてぇ。あと毎回話し掛けて来る時に上目遣いなの誘ってんのかと思うし普通に持って帰りてぇ」と新人バイト九頭見に対しての評論をほろ酔い気分のまま思うままに吐き出した俺の肩をばしばしたたきながら「いやベタ惚れじゃねぇか」と笑い飛ばしたオーナーのそれが、強いて言うなれば自分の気持ちを自覚したきっかけだろう。

「なぁ、」
「は、はいっ」
「ビールと梅酒どっちがいい」
「あ、梅酒がいい、です」
「…………くそ可愛」
「え?」
「何でもねぇ。梅酒な」

 そうか。これが恋か、と。
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