偽婚約者の恋心~恋人のフリが本気で溺愛されています~
蓮サイド
蓮サイド

初めて彼女を見かけたのは、うちが所有するベリーヒルズオフィスビルの1階エレベーターホールだ。エレベーター待ちをする人達の横を颯爽と通り過ぎて行く。一瞬で、美しい横顔に目を奪われた。色白で、黒目がちな潤んだ瞳。艶のある黒髪。毛先はきれいに巻かれていて、優しい雰囲気が滲み出ている、清楚系高嶺の花といったところだろう。ベリーヒルズグループの副社長に就任してから、目まぐるしい毎日で、自分より年下の重役達に、

いいね〜お坊っちゃんは。遊んでいても将来安泰だ。

親が社長だなんて羨ましい。わしも社長の息子に生まれたかったよ。ワッハッハ。

なんて嫌味は日常茶飯事だ。

逆に副社長という肩書きに寄ってくる計算高い男達や、やたら色目を使ってくる女達にもうんざりしていた。彼女を見かけたのは、そんな時だった。彼女はいつの間にか俺の心の癒やしになっていた。その日から、彼女のことが気になって、同じ時間にエレベーターホールに立つようになった。彼女はいつもきっかり同じ時間に通り過ぎて行く。
3日もしないうちに、エレベーター待ちの男性社員達から、

あの美人は誰だ?

旅行会社の子?

彼氏いるのかな?

などと囁かれるようになった。
そんな会話に気持ちが抑えきれなくなった俺は、1度だけ彼女の後を追った。彼女は誰もいないと思っているのか、鼻歌を歌いながら階段を上がっていく。
彼女の可愛いらしい一面を知ることが出来、愛おしさが増す。

後をつけるなんて、俺は一体何をやっているんだ!我に返り、エレベーターホールに引き返した。
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