嘘吐きな王子様は苦くて甘い
胸がドキドキして、心なしか息も苦しい。爪が食い込んでしまいそうな位に拳を握り締めて、旭君の言葉を待った。

付き合おうって言ってくれたことが凄く嬉しかったのは本当。だけど欲張りが叶うなら、旭君の口から欲しかった言葉がもう一つだけ。

ー好き

そう、言ってほしい。

「…わり」

目を瞑って身構えてきた私に降ってきたのは、私が欲しかったものとは全く別の二文字だった。

「…え?」

今、旭君謝った?

思わず顔を上げると、旭君は私をジッと見つめていて。その顔が凄く辛そうに見えて、私も視線が逸らせなくなる。

「旭君…」

「…行こ、もう」

旭君の方から視線を逸らして、そのまま立ち上がる。それから私の前に「ん」と手を差し出した。

「あ、ありがと」

グイッと引っ張られて、私も立ち上がる。旭君は顔を隠すようにすぐ前を向いてしまって、どんな表情をしてるのか背の低い私の位置からは見ることができなかった。










あの後すぐお互い家に帰って、私は着替えもしないまま勢いよくベッドに飛び込んだ。俯せで枕に顔を埋める。

ーわり

あの二文字が、私の頭の中を凄いスピードで何回もぐるぐると回る。

何で?何で旭君は、謝ったの?

死にそうな位の勇気を精一杯に振り絞って、私なりに今までの気持ちを真剣に口にしたつもりだったのに。

それに対する返事が謝罪って、何?

というか今考えると、そもそも「何でいいって言ったの?」っていう質問自体ちょっとおかしい気がする。

だってそんなの、好きだから意外にないじゃん。旭君のことが好きだから、だからオーケーした。他にどんな答えがあるっていうの?

旭君だって、私のことが好きだから告白してくれたんじゃ…

そこまで考えて、私はガバッと顔を上げた。

もしかしてあれって、

「告白じゃない…?」

だってそれしか考えられない。「付き合うか?」とは聞かれたけど「好きだから付き合って」とは言われてないし。

しかも私が「よろしくお願いします」って返事した時、ちょっとビックリした顔してたよね?確か。

一回そう考えたらもう止まらなくなって、どんどん顔が青ざめていく。もしかして私、何かとんでもない勘違いをしてしまってるんじゃないだろうか。

「ひまりー?ちょっと手伝ってー?」

ぐるぐる考えてると、下からお母さんが私を呼ぶ声が聞こえて。

「あ、はーい」

頭の中ぐっちゃぐちゃのままだけど、取り敢えずベッドから起きて私は一階へと向かったのだった。
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