嘘吐きな王子様は苦くて甘い
「はぁ!?何それあり得ない!」

放課後のカラオケボックスで風香ちゃんの大きな声が響く。

「石原君って女子に超冷たい感じじゃん?でもひまりだけには違うのかなって思ってたのにさぁ!ひまりがちゃんと気持ち伝えたのに謝るだけなんて、マジで意味分かんない!」

コーラのグラスを掴んで勢いよく飲み干す風夏ちゃん。それからドンッと乱暴に置く。

「ちょっと落ち着け、風夏」

「だって腹立つじゃん!ひまりに言わせるだけ言わせといて自分は何も言わないなんてさぁ」

「ありがとう、風夏ちゃん。怒ってくれて嬉しい。でも私、旭君のこと悪く言いたいんじゃなくて…」

「分かってるって!でもショックだもんねぇ!」

「うん…」

あれから何度か一緒に登下校したけど、旭君は至っていつも通り。私もあの日のことを追求する勇気はなくて、結局普通にするしかなかった。

「折角、勇気出して好きって言ったのになぁ…」

我慢してた涙が、ゆっくり流れ出す。握り締めていた自分のグラスの中に、ポチャンと一粒零れ落ちた。

「ひま…」

「泣くなぁ、ひまりぃ!」

「う、うぇ…っ」

二人が私をギュッと抱き締めるから、益々涙が溢れてきて。拭う暇もない位、私は暫くの間泣き続けた。








「ちょっとは落ち着いた?」

「…うん、ありがとう」

「ホンット許せない、石原君!いや、石原のヤツ!」

「アハハ…」

こんな風に、旭君の悪口みたいなことホントは言うつもりじゃなかった。だけど吐き出せたことで気持ちが少し軽くなったことも事実だ。

「ひま」

菫ちゃんが、優しく私の名前を呼ぶ。

「今はいいから。うんと石原にムカついときな」

「アハハ、うん」

「めいっぱいムカついて心の中でぶん殴ったら、その後はちゃんと本人と話すことね」

「…」

「怖いのは分かってる。でもこのままだと、ひま一生後悔するよ?石原のこと、大好きなんでしょ?」

「…うん」

「だったら、何で謝ったりしたのか本人にちゃんと確かめないと。ホントの気持ちは、石原にしか分かんないからさ」

「もしまた酷いこと言われたら、私らに言いなよ!話なら幾らでも聞くから!」

「うん、ありがとう二人とも!」

そうだよね、旭君が何も言わないからって私もそれに合わせる必要なんかないんだ。

もし「間違いだった」なんて言われたら立ち直れないかもしれないけど…

でも、このままはもっと嫌だ!

旭君にもきっと、旭君なりの言い分があるはず。

旭君は、ホントは優しい人だもん。

ちゃんと会って、話をしてみよう。

そう思ったら少しだけ、沈んだ気持ちが前に向いた気がした。
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