嘘吐きな王子様は苦くて甘い
第一章「大好きなお隣さん」
憧れのセーラー服が着れてとっても幸せ。

大好きな友達と同じ高校に通えてとっても幸せ。

クラスの皆も担任の先生もいい人達ばかりでとっても幸せ。

だけど一番の幸せはーー

「おはよう、(アサヒ)君!」

大好きな旭君と、同じ高校だってことだ。

「朝から無駄に元気な」

「今日もいい天気だね、旭君!」

「あーはいはい。ていうか下の名前で呼ぶのやめろよ」

「学校ではちゃんと石原君って呼ぶから大丈夫!」

「お前、数学のプリントちゃんと持ってんの?」

「え?」

「昨日、急に提出って言われて間に合わないとか言ってたやつだよ」

「あ、忘れてた!ありがとう、取ってくる!」

「ったく。先行ってんぞ」

「うん!すぐ追いつくからっ」

「いーよ別に」

私はクルッと向きを変えて、玄関のドアに手を伸ばす。家に入る直前にもう一回旭君を見れば、待ってくれる様子はない。だけどいつもより、歩くペースがゆっくりな気がして。

私は誰にも気付かれないようにニンマリ頬っぺたを緩ませながら、急いでドアを開けて靴を脱いだ。






ーー私達は、幼馴染みだ。

ピカピカの新築がひしめき合っていた住宅地、今ではすっかり壁の色も燻んだ。

先に家を建てたのが旭君一家で、一年後に私達家族がその隣に家を建てた。

立地が良い代わりに土地の面積はあんまり広くないらしく、お隣さんとお隣さんはとても近い。

「ひまりちゃんとは遊ばないっ」

石原(イシハラ)(アサヒ)君は、初めて会った頃からずっと天邪鬼な男の子だった。

私、大倉(オオクラ)ひまりは最初旭君のことがあんまり好きではなかった。

「何でそんな意地悪言うの?」

「だってひまりちゃん、足遅いんだもん」

「酷いよ」

「べーだっ」

思いっきり舌を突き出して、走って逃げていく。私は半ベソをかきながら、一人小さな庭でシャボン玉を吹いた。

「…」

「旭君?」

視線を感じてそっちを向くと、ブスッとした様子で旭君が自分の家のカーポートに停めてある車の影から顔だけ出していて。

「一緒にやる?」

まだ使ってないシャボン玉の吹き口を差し出すと、旭君は嬉しそうに頷いて走ってくる。

その後私の手からそれを受け取り「ありがとう!」と輝く笑顔で笑った。それを見ると私は、いつも意地悪されたことなんて忘れちゃうんだ。

天邪鬼で、寂しがり。素直になったと思ったら、またすぐ意地悪してくる。

だけど私は、そんな旭君をいつの間にか好きになっていて。

旭君のキラキラの笑顔が見ると、凄く凄く幸せな気持ちになれたんだ。
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