嘘吐きな王子様は苦くて甘い
「ごめんね、結局送ってもらっちゃって」

「いや、俺こそごめんね!最後だと思ったら名残惜しくて。気不味かったでしょ?」

「ううん、全然!」

一ノ宮君は、家の近くの曲り角まで私を送ってくれた。

「じゃあ、ここで」

「うん」

「やりずらいとは思うけど、教室とかで普通にしてくれると助かる」

「うん」

「ばいばい、大倉さん」

「ばいばい」

お互いに手を上げて、私は一ノ宮君の背中を見送った。まだ少し心臓がドキドキしてて、それを落ち着かせる為にゆっくりと深呼吸を繰り返す。

帰ろうと角を曲ったところで、旭君の姿を見つけて。

待ち構えるみたいにして壁に寄りかかってるから、一瞬私を待ってたのかと錯覚してしまった。

「…」

「なぁ」

旭君が、ゆっくり私に近付いてくる。

「な、何?」

言葉を交わすのは、別れを告げられたあの日以来。唇がカラカラに乾いて上手く喋れない。

「今、アイツといた?」

旭君は、スッと目を細めて私の後ろに視線をやった。

「アイツ?」

「一ノ宮」

「あ、うん。近くまで送ってくれたの」

「何で?」

「何でって…」

「告白でもされた?」

「っ」

「ハッ、やっぱな」

見透かしたように薄く笑った旭君に、ちょっとカチンとしてしまう。

「アイツ、明らかにお前狙いだったじゃん」

「そんなことないよ」

「俺とお前がこの間まで付き合ってたの知ってんだろ?なのによくやるよな」

「…そんな言い方しないで」

「何で庇うの?まさか付き合うことにしたとか?」

「旭君には、関係ないでしょ?」

旭君は一瞬目を見開いて、グッと眉間にシワを寄せる。

「…好きだっつったくせに」

「は?」

「お前、俺が好きだっつったじゃん」

「言ったよ!言ったけど」

「じゃあ何でアイツと付き合うんだよ!」

旭君が一歩私に詰め寄る。その雰囲気が怖くて、思わず後退りしそうになるのをグッと我慢して、私は思いっきり旭君を睨み付けた。









「旭君のバカ!」

「は、はぁ!?」

「なんっにも分かってない!昔からずっと私の一番近くにいるくせに、旭君何にも分かってないよ!」

「な、何が」

「好きだっつったろ?って何よ!私が旭君を好きだから何よ!永遠に旭君だけ見てると思うの!?」

「…」

「酷いよ旭君…この間からずっと酷い…」

右手でグーを作って、旭君の肩に当てる。思いっきりしてやろうと思ったのに、全然力が入らない。

「旭君の、バカ…」

「…ごめん」

「それは、好きじゃないのに付き合って言ってごめんってこと?」

「っ」

旭君が息を呑んだのが分かる。

「ごめんね、私前に旭君と友達が教室で話してたの聞いちゃったんだ」

「…」

「旭君、私のこと好きでもなんでもないのに付き合おうって言ったんでしょ?」

「違う」

「嘘だ」

「嘘じゃねぇ」

「旭君は嘘ばっかりだ!」
< 39 / 89 >

この作品をシェア

pagetop