嘘吐きな王子様は苦くて甘い
私の言葉に、旭君は動きを止めた。

「私、旭君が好きだよ?昔からずっと」

最近私は、旭君の前で泣いてばっかりだ。

「旭君以外の男の子なんて、一度も見たことないよ?」

「…」

「でも旭君は違うでしょ?私のこと、好きでもなんでもないでしょ?」

「俺は…っ」

クシャッと顔を歪めた旭君に、私は続ける。

「もう、昔みたいには戻れない。戻れたとしても、私が嫌なの。前みたいに、好きだって気持ちを隠したまま一緒にはいられないから」

「ひまり」

「旭君といると、辛いよ…」

「…そうかよ」

旭君は俯いて、一歩後ろへ下がる。

違うのに。こんなこと言いたかったわけじゃないのに。

折角菫ちゃんと風夏ちゃんに背中を押してもらって、もう一回頑張ろうって思えたのに。

…何でこう、なっちゃうんだろう。

「あ、旭く」

旭君に伸ばしかけた手は、彼が背を向けたことで虚しく空を切った。

「…悪かったな」

前を向いたまま小さく呟いて、旭君は行ってしまう。引き止めたいのに涙が止まらなくて、私はその場にしゃがみ込む。

「旭く…」

旭君、大好きだよ。

これで、よかったのかもしれない。旭君はもう、私に罪悪感を感じなくて済むから。

お隣さんの私から解放されて、旭君はきっと旭君に相応しい子と…

すっかり見えなくなった背中をいつまでも見つめながら、その場で暫く泣き続けた。
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