嘘吐きな王子様は苦くて甘い
「ひまりー?旭君来たよー?」

…前にも、こんなことあったような。

「よ」

「…」

旭君は、私の家の玄関に立って片手を上げてる。私はそれを何とも言えない表情で見た。

「今日暇?」

「暇だけど…」

「おし、行くぞ」

「ど、どこに?」

「十五分後にまた来る」

「ちょっ」

「じゃ」

行かないもん。絶対…

「お母さぁん、去年買ったワンピースどこだっけぇ?」

結局いそいそと頑張ってお洒落しちゃう私は、完全に旭君の思いのままだ。







「どこ行くの?」

ギンガムチェックの七分丈パフスリーブワンピースと、白のハイカットのスニーカー。髪型はお母さんに緩いハーフアップのお団子にしてもらった。

「映画」

旭君は、白のTシャツの上にキャメルの薄いシャツと黒のスキニー。いつもより無造作に流されたヘアスタイルも、シンプルだけど全てがキラキラ光って見える。

「映画…」

あれ?私達ケンカしてなかった?

「ひまり」

「っ」

名前を呼ばれた瞬間に、顔にボッと火がつく。やっぱり私は今でも、旭君が大好きなままだ。

「俺が見たいから付き合って?」

「え…っと」

「ダメ?」

「ダ、ダメじゃないです」

子犬みたいな目で見つめられたら、私に「イエス」意外の選択肢はなくて。

「ど、どうしたの?旭君」

思わず、旭君を凝視した。

「…」

「旭君?」

旭君は、一瞬目を細めてからスイッと逸らす。この表情は多分、超レアな恥ずかしがってる時の旭君だ。

「何が

「何がって、いつもと違うから」

「違わねーよ」

「違うよ」

「あーもう、いいから行くぞっ」

旭君は少しだけ乱暴に私の手を掴むと、そのまま私の前を歩いていく。

手、手、手が…っ

顔に集中していた熱があっという間に手の平に集まって、ドキドキと同時に汗でベタベタしてないかずっと気が気じゃなかった。
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