嘘吐きな王子様は苦くて甘い
この階は模擬店もないから、他の階よりもそんなに混んではいない。だけど皆それを予想して休憩にくるのか、思ったより人はいる。

「はぁ…」

まだほんのり熱を持つ頬っぺたを両手で挟む。最近、旭君が素直だ。他の人からしてみればまだまだ天邪鬼の無表情男子なんだろうけど、十年以上彼しか見てない私には分かる。

旭君も、私を安心させようと旭君なりに頑張ってくれてるってこと。

それは嬉しいことなんだけど、これ以上は私の心臓が持つかちょっと不安なところでもある。

「いや私興味ないんで」

トイレのすぐ横の曲がり角で強気な女子の声が聞こえて私は、足を止めた。

この声、どこかで…?

「いや俺らも別にナンパとかじゃないし。なぁ?」

「何か勘違いしてるみたいでごめんねー」

「だから私は」

「そこまで期待されたらさぁ、このままってわけにもいかないでしょこっちも」

「メッセ交換しよーよ、ホラスマホ出して」

「…」

聞き覚えのある声についチラッと様子を覗いてしまうと、そこには外部から来たらしき男の人達が二人と、ウチの制服を着た女子が一人。

ポニーテールがよく似合う、あの前橋さんだ。

勝気な表情で男の人達を睨んでるけど、よく見ると足が少しだけ後ろへ後退りしてる。それを塞ぐように二人で挟むようにしてて。

これって、どう見ても困ってるよね前橋さん。

どうしよう…








「先生、こっちです!女子が困ってて!何か絡まれてるみたい!」

大きく息を吸った後、精一杯の大声でそう叫んだ。演技なんかしたことないけど、今はこうするしかない。

「こっちです!こっち!」

「は、はぁ?俺ら何もしてねぇし!」

「マジ意味分かんねー行こうぜ」

「勘違いお疲れー」

そんな捨て台詞で、前橋さんの元から去っていく。本当に勘違いなら、先生呼ばれたって逃げる必要はないのに。

「前橋さんっ」

あの人達が行ったのを確認して、私は前橋さんの所に走る。

「お、大倉さん?」

前橋さんが私を見て、困惑の表情を見せた。

「取り敢えず、あっちに行こう」

「え、あの…」

「ホントに先生来ちゃうとまずいから」

私が大声出したことで騒ぎになっちゃってもよくないから、取り敢えずもう少し人気のないところに行きたい。

「う、うん」

前橋さんも戸惑いながら、素直に私についてきてくれた。






「ごめんね、強引なことして」

「ううん、ありがとう」

「余計なことかなって思ったんだけど」

「助かったよ、話通じなくてさ」

「あんな人達、漫画の中だけかと思ってた」

「ね、私もビックリしたよ」

前橋さんは笑ってるけど、きっと怖かったと思う。それに私のことよく思ってないはずなのに、そんなこと関係なく素直にお礼を言う彼女はきっとホントはいい子なんだろう。

「…大倉さん」

前橋さんは、暗い顔をして私に向き直った。

「この前は、ごめんなさい」

それからペコリと頭を下げる。

「完全に、私の一方的な嫉妬でした。大人数で呼び出したりなんかして、ホントにごめん」
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