嘘吐きな王子様は苦くて甘い
「あーもうマジで…」

言いかけて、旭君はまた口をつぐんだ。

「わり、気にさせた」

「ううん、本気で気にしてたわけじゃないよ。ただ焦る旭君が可愛くて…」

「まぁもういいけど、あんま煽んのはやめろ」

「煽る?可愛いって言ったこと?」

「…分かんねーならいい」

旭君は怒ってる風でもなく、ただちょっと疲れて見えた。

「誘った俺が悪いわ」

「え!」

「あ、いや。場所な。やっぱ部屋はやめときゃ良かった」

そういえば、前に突撃訪問した時も旭君は部屋を嫌がってたような。

「旭君は、何でそんなに部屋が嫌なの?」

「…特に意味ねえよ!」

旭君は立ち上がって、教科書を纏める。

「ホラ他行くぞ」

「他?図書館とか?」

「そんな感じのとこ」

「そっちの方が集中しやすいの?」

「まぁそう」

「そっか、じゃあ行こう」

ニコッと笑って、私も荷物を纏める。色々気になるところはあるけど、私もからかい過ぎちゃったし反省してこれ以上追求するのはやめよう。








「なぁひまり」

図書館からの帰り道、旭君との距離は相変わらず拳三個分はある。

「何?」

「…」

「旭君?」

「いつも、ありがと」

「え?」

「ひまりはスゲーって思ってる」

確か前にも、そんなこと言ってくれた。私は何も凄くないのに。

「私凄くないよ。凄くないけど…」

夕陽に照らされる旭君の綺麗な横顔を、チラッと視界に入れる。目を見つめながら言う勇気、今はないから。

「旭君のことは…誰にも負けたくない。勝ち負けじゃないの分かってるけど、それでも他の子より、私が旭君のこと理解して一番近くにいたい」

「…」

「私ね?強くはないけど実はそんなに弱くもないんだよ?だからね、私のこと気にしてくれてるなら大丈夫だから」

私は、旭君を悩ませる種にはなりたくない。できるだけ、旭君の力になりたいっていつも思ってる。

「…知ってる。お前が弱くないこと」

「…」

「俺はずっと、ひまりに力貰ってる」

「旭君…」

「お前につり合うように、ちゃんとするから」

旭君は、目線を合わせるように私の顔を覗き込む。

「もう少し、待ってて」

優しい瞳でそう口にする旭君の真意は、この時の私にはまだハッキリとは分からなかった。
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