嘘吐きな王子様は苦くて甘い
「旭君…私のこと嫌いになったの?」

上目遣いに、彼を見つめる。

「は?んなわけないじゃん」

「だってこの間から、旭君おかしいから」

「…別に何もおかしくねぇよ」

「学園祭の時は頬っぺた触ってくれたのに…」

「っ」

「今日も、触ってくれる?」

「は!?」

私のお願いに、旭君は分かりやすく動揺した。ちょっと大胆過ぎちゃったかなって言った後恥ずかしくなったけど、今は旭君をいじめたいって気持ちの方が勝ってる。

タジタジの旭君は、とっても新鮮で可愛い。

「ダメなの?」

「いやダメっつーか」

「じゃあいい?」

「いやいいっつーか」

「もう、どっちなの!」

「いやどっちっつーか」

煮え切らない態度の旭君に、私は痺れを切らした演技をする。内心はおかしくて仕方ない。

意地悪だなぁ、私。

「分かった、じゃあ私から触る」

「は!?」

さっきより何倍も大きな声の「は!?」だ。

「ジッとしてて?」

「い、いやひまり。一旦落ち着け」

後ろ手をついて後退りする旭君にジリジリと距離を詰めていく私。

「落ち着いてるよ」

「冗談だろ」

「本気だよ?」

「ひまり」

「旭君?」

「…っ」

旭君を壁際に追い詰めて、膝立ちで彼にそっと手を伸ばす。旭君は諦めたようにギュッと固く目を瞑った。

私のすぐ目の前には、旭君。いつもの意地悪な瞳は、今は固く閉じられてる。

私の意思一つで、いつでも旭君に触れられる。









「…」

中々触れてこない私に、旭君は恐る恐るといった感じで目を開けた。

「む、無理…」

「ひまり…」

「な、何て言うんだっけこういうの…あ、そうだ。ミイラ取りがミイラになる…ってやつだ」

「…」

「あ、あはは…」

無理でした。最後までできませんでした。旭君の必死の抵抗が可愛くて、自分が恥ずかしがり屋だってこと忘れてました。

でも今思い出したのでこれ以上は無理です。

「ブハッ」

旭君は私の顔を見て、盛大に吹き出した。

「何なんだよお前は」

「だ、だって…」

「途中で恥ずかしくなった?」

赤い顔もそのままにコクリと頷くと、また旭君が盛大に笑い声を上げる。

「もう、そんなに笑わないでよ!」

「自分で始めたくせに…ククッ」

「旭君が変に反応するからだよ!」

そんな旭君にいたずら心が芽生えたのは私だから、ホントは旭君は悪くないんだけどね。
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