嘘吐きな王子様は苦くて甘い
「石原君、大倉さんが幼馴染みだからはっきり言えなかったんじゃん?」

「巻き込まれたようなもんだし、可哀想だよね」

「…何の話してるのか分かんない」

私の言葉に、二人はニンマリした。

「じゃあ教えてあげよっか?」

「ウチらのクラスの一部の男子がやってるゲスな遊びがあるんだけどさ、適当な女子に声かけて告白してオッケーもらえたヤツが勝ちっていう」

「…」

知ってるけど、何も言わずに黙って聞く。

「石原君はもちろんそこに参加してなかったけど、そいつらが狙ってる次の女子が大倉さんって聞いて、石原君は庇うために大倉さんと付き合ったんだって」

「普段冷たい感じだけど、石原君って優しいよね」

「…」

勝ち誇ったように私を見ながらクスクス笑ってるけど、私それ知ってるんだよなぁ…

この場合、何て言うのが正解なんだろうと頭の中で考える。

下手なこと言っちゃうと、私じゃなくて旭君のイメージを下げることになるかもしれないし。

…よし。

私は二人に向き直ると、グッと背筋を伸ばした。

「そんなこと、私には関係ないよ。私は私の意思で、石原君と付き合ってるから」

怯んだ様子を見せない私に、二人の表情が変わっていく。

「私は、石原君が好きなの。だから付き合ってるし、石原君も受け入れてくれた。そんな下らない遊び、関係ないよ」

「大倉さん、石原君が可哀想だと思わないの!?好きでもないのに、幼馴染み傷付けたくないから付き合ってあげてるんだよ石原君は!」

「それって、本人がそう言ってたの?二人は、石原君の口からハッキリそう聞いたの?」

「っ、そうだよ!ねぇ?」

「私も聞いたし!でも大倉さんが直接聞いたところで石原君ホントのことなんか言わないからね!」

「それでもいいよ」

「なっ…」

「私は、石原君の言う方を信じる。どっちが本当かなんて関係ないもん。好きな人のことを信じるのは、当たり前のことだもん!」

揺らがない私にイラついたのか、二人の表情には怒りが滲んでいた。








「バッカみたい!折角忠告してあげたのに」

「精々酷くフラれたらいいよ!」

「そうなったって、私後悔しない。私のことバカだと思ってるなら、もう構わないで!」

ついヒートアップしてしまい、私も相手に合わせて声が大きくなる。

「このこと絶対言いふらしてやるから!」

「もう行こ!話通じない!」

二人はフンッと鼻を鳴らしながら出ていく。残された私は、ふと前に視線を移した。鏡に映る、酷く情けない顔。

「もう…しっかりしろ!」

元々知ってた内容だし、あの子達が私をよく思ってないことなんて前から分かってたことじゃないか。

平気、全然何ともないって自分に言い聞かせたけど、やっぱり人から受ける悪意は悲しくて怖い。

もっと上手く言い返せなかった自分自身ももどかしくて、私は蛇口を捻るとバシャバシャと乱暴に顔を洗った。
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